第11話 告白シチュエーションその6

「さて、それでは最後のシチュエーションです」


「まだやるのか……」


「マイナス100億点では終われません」


「もうそれ許してくれませんかね……」


語彙力のなさ丸出しで、恥ずかしいんだが……。


げんなりとしながら言うが、蒼衣にはまったく響いていないようだ。というか、今回はからかったわけではなかったらしい。


「最後にはもう、これしか思いつかなかったので、これで勝負します。超、自信作です!」


むしろ、蒼衣も語彙力落ちてるな……。


「まあいいか……。で、今回はどんな感じだ?」


「シチュエーションの説明は、なくてもわかると思います。あ、でも先輩、ベッドに寝転がってください」


そう言いながら、蒼衣は立ち上がり、俺へと背を向ける。


疑問に思いつつ、言われた通りに寝転がる。うーむ、いつも通りの安心感。


そんなことを思っていると、天井しか映っていなかった視界が一転、蒼衣が覆い被さってくる。


「……どういう状況なんだ……?」


「すぐにわかりますよ。じゃあ、はじめますね?」


んんっ、と可愛らしく咳払いをしてから、蒼衣が口を開く。


「先輩。わたしは、あなたが好きです」


「────」


その言葉は、真っ直ぐで、シンプルなもの。


けれど、俺にとって。俺たちにとっては、特別なフレーズになる。


そう、これは、蒼衣からの告白のフレーズだ。


はっとした俺の表情に、蒼衣は「気付きました?」とばかりに、にやり、と笑う。


そして、甘い香りとともに軽い口付けをしてから、追い討ちをかけるように続けた。


「先輩が、耐えられないくらい、わたしを好きにさせてあげます」


どきり、と心臓が跳ねるように、鼓動を早める。


とある夏の、台風の来ていた日。


停電して真っ暗な部屋の中で告げられた言葉たち。


過程をすっ飛ばしているせいで文脈が繋がらなくなっているが、そんなことは関係ない。


ああ、懐かしいな。


あのときも、蒼衣はこんな風に、恐ろしいくらい、自信に満ち溢れた表情をしていた。


違うのは、頬の赤みくらいだろうか。もっと顔を赤くしていたはずだ。


可愛さは、あのときと変わらない。……いや、今のほうが可愛いな。


「先輩、見過ぎ、ですよ?」


「そんなに見てねえ」


くすり、と笑いながら指摘され、思わず視線を横へと逸らす。


「あまりの可愛さに、見惚れちゃいました?」


「だから見てねえって」


そんな照れ隠しを聞いて、楽しそうに笑う蒼衣。


ひとしきり笑ったあと、逸らした目線の先へと、倒れ込んでくる。


その表情は、変わらず自信満々だ。


「ちなみに先輩。聞くまでもないと思うんですけど、何点ですか?」


「何点だと思う?」


「それはもちろん、100点満点、ですよね!」


そう言って、先ほどまでと同じ自信に満ちた、けれど、少し幼いような無邪気な笑みを浮かべる蒼衣に、俺は観念したように答えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る