第10話 告白シチュエーションその5

「それでは、まずシチュエーションの説明をはじめます」


「今までになかったパターンだな……」


「さすがに今回のは、雰囲気で感じ取ってもらうのは難しいかな、と思ったので」


そう言ってから、蒼衣はひとつ咳払いをして、少し芝居がかったように話をはじめる。


「舞台は今から5年後、社会人です。大学を卒業して、なんだかんだありまして、あるとき居酒屋で偶然再会した元恋人、という設定です」


「マイナス100億点」


「小学生みたいな単位!? じゃなくてっ、まだはじまってないんですけど!?」


「元恋人って、1回別れてるじゃねえか。その時点でアウトだ」


「………………たしかにそうですね」


どうやら、シチュエーションを考えるあまり、気づいていなかったらしい。


難しい顔をした蒼衣は、ぷくり、と頬を膨らませる。


「結構いい出来のシチュエーションだと思ったんですけど……。この前提はダメですね」


「そういうことだ。だからマイナス100億点」


「その小学生みたいな点数の付け方はどうかと思いますけど……」


「いや、まあ、なんとなく反射で……」


たしかに、さすがに幼稚すぎるな……。咄嗟に出たのがこれだったから、仕方ないと言えば仕方ないのだが。


人差し指で頬をかいていると、蒼衣がなぜか満足そうに息を吐く。


「見せる間も無くボツになったのは残念ですけど、このシチュエーションは役に立ったので、いいことにしておきます」


「役に立った?」


そんなところ、あったか?


疑問に思っていると、蒼衣が満足そうに笑う。


「はい。先輩がわたしのこと、好きすぎて離すつもりがないことが伝わってきたので。それだけで十分です」


「それは、まあ……」


気恥ずかしさに目を逸らすと、蒼衣がくすくすと笑う。


「マイナス100億点ですもんね」


「おいやめろあんまり言うな恥ずかしい」


「えぇー? どうしましょうかねぇ?」


にやにやとこちらを見る蒼衣。


その楽しそうな瞳にからかわれながら、俺は語彙力の強化を誓うのだった──


たまには小説とか読んでみるか……。


「オススメありますよ?」


「思考を読むんじゃねえよ……」

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