第8話 告白シチュエーションその3

さらにぎゃあぎゃあ騒ぎ、クラウドにアップされた画像まで消してから。


「なあ、もうちょっとストレートなやつはないのか? さっきから変化球すぎないか?」


すでに疲れの出てきた俺は、ベッドへと倒れ込みながらそう言った。


「え、あんまりお気に召しませんでした?」


「いや、悪くないんだが……。もうちょっと普通のやつがほしいな、と」


「なるほど……。そうですねえ、じゃあ次は……」


ぶつぶつと小さく呟いてから、蒼衣が胸の前で拳を握る。


「おっけーです、いけます」


俺がひとつ頷き起き上がると、蒼衣は前のめりになりながら、勢いよく言葉を発する。


「好きです! 一目惚れです! 付き合ってください!」


ふぁさ、と前髪が揺れ、甘い香りとともに、可愛い顔が至近距離に来る。


大きな瞳に吸い込まれるような感覚。


なるほど、そうきたか。


たしかに、一目惚れは王道のシチュエーションのひとつだ。


そして、この至近距離。たしかに、どきり、とさせられる。


しかし、このパターンの返答の定番といえば──


「ごめん、俺、君のことよく知らないから……」


「えぇっ!? ふ、振られるんですか!?」


「いや、その告白にはこの返しだろ」


「むぅ……。言われてみればそうですけど。そうですけどー」


ぷくっ、と頬を膨らませる蒼衣。その頬を人差し指で押し込むと、空気が抜けて、柔らかな肌に指先が埋まる。


「……そういえば、一目惚れって本当にあるのか?」


もちもちとした感触を楽しみつつ、ふと疑問に思ったことを口にすると、返答するのに邪魔だったのだろう。すっと手を退けられる。名残惜しいな……。余計な疑問を口にするんじゃなかった。


「どうなんでしょう。あるといいな、とは思いますけど……。そう言うってことは、先輩は一目惚れじゃなかったんですよね?」


「一目惚れではなかったな。……可愛いな、とは思ったが」


ゼミで見かけたときに、やけに可愛い女の子がいるな、と思ったのは、今も覚えている。


あのときは、仲良くなるとも、好きになるとも、はたまた恋人になるとも思っていなかったが。


ちょっと懐かしい気持ちに浸っていると、目の前の蒼衣がへにゃりと笑いながら、頬に手を当てている。


「そんなこと思ってたんですか。……えへへ」


「……そういう蒼衣は?」


「ええと……わたしも一目惚れではなかったですね。気になるな、とは思ってましたけど」


「……なるほど」


俺が蒼衣に興味を惹かれていたように、蒼衣もまた、俺に少しは興味があったらしい。……ちょっと嬉しい気がするな。


そんなことを思っていると、蒼衣が微妙な顔になる。


「……この人、死にそうだなって思ってました」


「そっちなのか……。当時のことを思うと、否定できないのがなあ……」


前言撤回。嬉しいタイプの興味ではなかった。


「半分は冗談ですよ。なぜかわからないんですけど、気になってたんですよねえ。今考えると、相性がよかったからかもしれませんね」


そう言って、蒼衣は楽しそうに笑う。


「ちなみに先輩、今回は何点ですか?」


「そうだな……。70点、くらいか」


「あれ? 低いですね」


「悪くはないんだが、断る流れになったし」


「それは先輩側の問題じゃないですか!?」


「いや、シチュエーションの問題だろ」


「むぅ。……やっぱり胸ですか、胸を揉まないとダメなんですか」


ぷくり、と頬を膨らませた蒼衣が、俺をじとり、と見ながら胸を抱くように腕を回す。


少し強調されたふたつの丘から、思わず目を逸らした。


「おい、俺を変態みたいに言うんじゃねえよ」


「でもさっき、30点もボーナスつきましたし」


「それは仕方ないんだよなあ……。というか、あれに関しては触らせたのお前なんだが……」


「そ、それはシチュエーション的に、必要だったので……」


つい、と軽く頬を染めながら、蒼衣は目線を逸らす。


「……まあいいです。70点で」


「微妙に不服そうだな」


「それは、まあ。考えた結果が微妙な点数だったので。告白って、難しいですね」


そう言って、蒼衣は切り替えるように、小さくため息を吐いた。


「では先輩、次にいきましょうか! 今度はちょっと、重たい感じでいきます」


打って変わって、明るくそう言う蒼衣だが。俺は、その言葉に引っ掛かりを覚えた。


今度は……?


「……最初のふたつも重くなかったか?」


「……気のせいですよ」


絶対に気のせいじゃないと思うんだが……。

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