第7話 告白シチュエーションその2

柔らかな感触が手のひらに伝わる。少し暖かく、揉みたくなるこれは──


「──は?」


あまりの唐突さに、俺は間抜けな声を出す。


おかしい。先ほど、蒼衣は次のシチュエーションに移る、と言ったはずだ。


なのに、この状況はおかしい。なぜ俺は、俺の右手は、蒼衣の胸を揉んでいるのか。しかも、俺の意思ではなく、腕を掴み、誘導したのは蒼衣自身だ。


「ちょ、ちょっと蒼衣さん?」


困惑しつつ、蒼衣に問いかけるも、その表情は見えない。顔が熱くなるのを感じる。とにかく手を離そう。


そう思った瞬間、前髪の間から、きらり、と瞳が怪しく輝く。


「──先輩、今、わたしが悲鳴をあげたら、どうなるかわかりますよね?」


「え?」


「他の人に見られたら、困るのは先輩です。か弱い女の子と、男の人。どちらの言い分が信じてもらえると思いますか?」


「あ、今回そういうやつか……」


多分これ、脅迫系のやつだな。


なるほど納得、なんて思っていると、ぱしゃり、と音がする。


「証拠も残しました。これがばら撒かれたら、どうなっちゃうんでしょうね?」


そう言って、にやり、と笑い、スマホの画面を見せつけてくる蒼衣。しっかりと、俺が蒼衣の胸を触っているのが写っている。画角完璧じゃねえか。


「さて、先輩。あくまでお願い、なんですけど。わたしと付き合ってください。断ったらどうなるかは──言わなくても、わかりますよね?」


普段とは違い、暗い笑みを浮かべた蒼衣が、顔を寄せてきて──先ほどまでと一転、にこり、といつもの笑みを浮かべる。


「──と、いう感じで。2個目でした! どうです? ドキッとしました?」


「ドキッの方向性がなんか違うんだよなあ」


「あは、ダメですか」


「いや、別にダメじゃないんだが……。こう、恋愛的なやつよりも、身の危険的なドキッのほうが強いんだよな……」


「そうですかー、こういうのもいいかなー、って思ったんですけど。ちなみに、何点ですか?」


「90点だな」


「あれ!? 思ったより高得点ですね?」


「まあ、ボーナス点がついてるからな」


「ボーナス点、ですか?」


こてん、と首を傾げる蒼衣に、俺は頷きかける。


「告白自体は60点だな。さすがに怖いし」


「ということは、ボーナス点で30点ですか。何がそんなについてるんです?」


「……これ」


そう言って、俺は目線を下へと向ける。


そこには、柔らかな双丘、その片側へと触れている、俺の手がある。


「……あ、あー、なるほどです」


そう呟いて、顔を赤くしていく蒼衣。


「今更照れるなよ……」


「だ、だって! 改めて言われると、その、なんだか恥ずかしくって……。そ、そろそろ離してください」


「……」


耳まで赤くなっている蒼衣を眺める。……ちょっとイタズラしたくなってくるな。そう思い、俺は右手を動かした。


「なっ! なんで無言で揉むんですかっ!」


「プラス5点で」


「ひと揉み5点!? 安くないですか!?」


そんな抗議とともに、ぺしっと俺の手が弾かれる。


「も、もうっ! 先輩のえっち……!」


じとり、とこちらに視線を向けてくる蒼衣。赤く染まった頬は、ぷくり、と膨らんでいる。両腕で胸を守るようにしているが、本当に今更すぎるんだよなあ。……まあ、動揺していた俺もなのだが。


「いや、今回のはお前が悪いだろ……」


「うっ……そうですけど……。でも、最後に揉む必要はなかったと思うんですけどっ!」


「そこはあれだ。ほら、その、本能的な」


「むぅ。素直に揉みたかったって言ってください」


「……よし、この話やめようか。次だな、次」


「あっ! 逃げようとしてますね先輩っ! さっきの写真ばら撒きますよ!」


「やめろ!? というかそれ困るのお前もだからな!?」


ぎゃあぎゃあ、とふたり揃って騒ぎながら格闘すること約5分。なんとか蒼衣のスマホを奪い取った俺は、証拠写真を消すことに成功したのだった──


「ちなみにクラウドにアップロード済みです」


「なんで!?」

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