第5話 そういうところが安心できない

「あの、先輩」


「ん?」


「その、一応、一応なんですけど、確認しておきたいことがありまして……」


蒼衣から貰ったチョコブラウニーを食べ終えてから、少しして。


満足感と幸福感に満たされた俺に、蒼衣が何やら言い出しにくそうに、ぽそり、と小さくそんなことを言い出した。


「改まってどうした?」


「いえ、その……先輩、わたし以外にチョコって貰いました?」


「いや、貰ってないが……というか、そもそも朝起きてからほぼ一緒にいるんだぞ?」


「それはそうなんですけど、前日とかに貰ってたりしたら、どうしようかなあ、と思いまして……」


「貰ってないから安心しろ。今年も蒼衣だけだ」


そう言って、一瞬悲しく──ならないな。まったくならない。昔なら悲しくなっていたのだろう。だが、今の俺は蒼衣から貰えればそれだけで十分、むしろそれが最高である。


そんな気持ちが伝わったのか、蒼衣の表情が、ほっ、としたものに変わる。


「そうですか。それならよかったです」


そんな蒼衣を見ていると、ふと気になることがひとつ。


「……なあ、さっき前日に貰ってたらどうしようか、って言ってたが……もし貰ってたらどうするつもりだったんだ?」


「渡した人を血祭りにあげます」


気楽に聞いた俺に対して向けられている瞳から、ハイライトが、すっと消える。


「こっわ!? 急に暴力的な話になったな!?」


「冗談ですよ。先輩にその人との関係を聞き出すくらいですね。あとは先輩がしばらく大変かもです」


「なんで俺が?」


「わたしのご機嫌取りです」


「なるほど」


冗談めかして言っているが、おそらくこっちは本当だろう。蒼衣、結構嫉妬深いところもあるからなあ。


まあ、彼女のご機嫌取りくらい、別に大変とも思わないが。


「まあ安心していいぞ。蒼衣以外からもらうことなんてあり得ないからな」


「そういうところが安心できないんですよねえ」


「どういうことなんだ……」


「先輩は自分の評価を少し改めたほうが良いっていうお話です」


「……と、いいますと?」


「教えてあげてもいいんですけど……せっかくです、もう少し自分で考えてみてください」


そう言って、蒼衣は俺の肩に頭を乗せてくる。どうやら、今は教えてくれるつもりはないらしい。


自分の評価、と言われてもなあ。


容姿はどちらかといえば残念寄りだし、オシャレにも疎い。運動は得意ではないし、勉強もまあ、普通だ。特に何かできることがあるわけでも、特技があるわけでもない、普通の自堕落な大学生。


考えれば考えるほど、残念スペックなのだが。


「……まったくわからねえ」


いつの間にか、眉間に力が入っていたのをほぐしながら、半ば投げやりに呟いた。

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