第2話 勝ちの決まっている日

2月14日。


それは、全国の男子がソワソワする1日である。


好きな子が誰にチョコレートを渡すのか、自分は貰えるだろうか、もしかしたらあの娘から──と、希望に満ちた妄想を膨らませる、そんな日。


そしてある意味、多くの涙が流れる日でもある。


かくいう俺、雪城雄黄も、涙を流した、というほどではないが、淡い希望に踊らされ、そして肩を落としてきた側だった。


だが、それも昨年からは違う。


俺のことを好いてくれる美少女がひとり。


その娘から、チョコレートを貰ったのだ。


では、今年はどうか。


昨年とは違い、俺の後輩こと、雨空蒼衣と俺は、恋人同士。つまり、確実に貰えるはずだ──!


そんなわけで、今年の俺は昨年のように、浮ついたりはしない。


「……目が覚めたな」


……しない。決してしていない。


たまたま、偶然、早く目が覚めただけだ。


ソワソワしたりとかしていない。


……いや、まあ、本当のことを言えば、ほんの少し、ほんのすこーしだけ、浮ついた気分にもなっている。


今年はどんなものをくれるのだろうか、という期待は、どうしても出てきてしまう。


昨年と同じ、ガトーショコラか、はたまた別のものなのか。


「あのガトーショコラ、ちょうどいい、ほんのりとした甘さだったんだよな」


今でも舌に蘇る、人生初の本命チョコに想いを馳せる。美味かったなあ。


……やばい、めちゃくちゃ楽しみだ。


蒼衣はいつ来るのだろうか。いつも通りなら、もうそろそろ来るはずだが、昨年と同じなら、昼過ぎくらいだろうか。


うーむ、それまでどうしたものか。


掛け布団を体に巻き付けながら、考える。


……とりあえず、ソシャゲの日課でもやるか。


そう考えて、布団の隙間から手を伸ばし、スマホを掴む。外の空気は冷たくて、布団から出る気にはなれない。


ぺちぺち、と画面を叩いてソシャゲを起動していくと、起動画面に表示されるのは、バレンタインイベントのイラストだ。うーむ、ここもバレンタインか。


ピンクやチョコレート色が散りばめられた、鮮やかな絵に気を引かれつつ、デイリーミッションをこなしていく。しかし、15分もすれば、それも終わってしまい、手持ち無沙汰になってしまった。


「もうやることないんだよなあ……。かといって、二度寝も違うな……」


この微妙な高揚感のせいで、眠気も微妙に飛んでいる。


うーむ……適当に動画でも見るか。


そう思い、動画サイトのアプリを押した瞬間。


かちゃり、と鍵が開く音がした。

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