第52章 2月14日
第1話 バレンタインは前日から
とある前日。2月13日。
その日の夕方。珍しくわたし、雨空蒼衣は自分の部屋で過ごしていた。
目の前には、使い慣れた──今となっては、これより使い慣れたものがあるのだけれど──調理器具たち。
そして、その隣に積まれているのはチョコレート。
腕を捲って、準備万端。
「……よしっ!」
声を出して気合を入れる。
年に一度のバレンタインデー。
きっと、まだ想いを告げていない人たちにとって、一大イベントだと思う。
けれど、もう想いも告げてあるわたしにとっても、これはとても大きなイベントだ。
好きな人に、改めて好きと伝える。日頃から言っているけれど、こういうイベントも欠かせない。何度でも気持ちを伝えておくことは、大切なことだと思う。
それに、わたしの想い人は、こういうイベント事が好きなのだ。バレンタインデーも、前回ソワソワしていた。ちょっと子どものような、無邪気なところがあるところも、彼の魅力だと思う。好き。
──と、話が逸れちゃったけれど。
わたしが気合いを入れる1番の理由。それは、昨年の準備不足にある。
わたしは料理は得意だけれど、お菓子作りはしたことがなかった。
だから、昨年はあまり完成度の高いものを渡せた、とは言えない。喜んでくれたし、とても美味しそうに食べてくれたので、あれはあれで成功だとは思うけれど。
でも、わたしとしてはさらに美味しいものをあげたい。
そう思って、この1年間、たまにお菓子作りに挑戦して、腕も上がっているはず。昨年よりも美味しいもので、驚かせてみせる!
そんなわけで、今年のバレンタインデーにかける想いは、昨年に勝るとも劣らないのだ。
「さて、頑張るぞ……!」
ぎゅ、と拳を握って、改めて気合を入れてから、お湯を沸かしつつチョコレートを刻みはじめる。
さあ、まずは、湯煎から──!
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