エピローグ 寝かせない、は俺の台詞だ

「電気消すぞー」


「はーい」


その返事とともに、蒼衣がベッドへと入り込むのを見てから、照明のスイッチを押す。


明るかった部屋が一気に暗くなり、頼れるものはカーテンの間から漏れる月の光、それだけだ。


とはいえ、真っ暗、というわけでもないので、すぐに目も慣れる。どこかに足をぶつけないよう、少しだけ注意しながら、ベッドへと潜り込んだ。


ほぼ同じタイミングで、すすす、と蒼衣が俺の腕の中へと寄ってくる。


それはいつも通りなのだが──


「……ん?」


「どうかしました?」


「いや……」


なんというか、いつもより近いような──いや、いつもゼロ距離なのだが、こう、微妙に密着感が強い気がする。


おそらく気のせいなんだろうな、とは思うのだが、この柔らかな感触を感じる面積が大きいような気がしてならない。


「んん?」


いやこれぐいぐい押し付けてきてるな。


それどころか、脚まで絡めてきている。


「ちょっと、蒼衣さん?」


その俺の問いかけには答えず、ぐいぐいと体を寄せてくる。あまり動かれると困るんだが……。


「……先輩」


「ど、どうした?」


俺の胸元へ押し付けていた顔をあげて、こちらを見る蒼衣。暗くてよく見えないが、その表情はどうにも不満そうだ。声にも不機嫌ですよ、感がのっている。


「先輩、洋画のあのシーンで、ちょっと興奮してましたよね」


あのシーン、というと──あれか、濡れ場か。


「いや、興奮というより、むしろ気まずさを感じてたんだが……」


「いえ、ちょっと興奮してたと思います。……わたし以外で」


「いや、してないんだが……。というか、それで言えば、お前もしてただろ……」


「わたしはしてませんっ! というか、今、お前もって言いましたね。つまり、先輩は興奮していたと」


「言葉の綾なんだよなあ」


「……これは由々しき問題です。先輩には、わたしが唯一で1番だということを再確認してもらわないといけませんね。……覚悟してください」


「この流れでその台詞が出てくるの、拷問か洗脳じゃねえか」


「安心してください。どっちもしませんよ。ただ──」


「ただ?」


「今夜は寝れると思わないでくださいね?」


……ご褒美だったか。


そんなことを思いつつ、ぷく、と頬を膨らませている蒼衣を見ながら、俺は心に決める。


蒼衣は俺に、自分が唯一無二であることを再確認させるつもりみたいだが、俺的には、問題はそこじゃない。


蒼衣もちょっと興奮していた、というところだ。


どうやら、蒼衣にとっても、俺が唯一無二であることをわからせなければならない。


少しだけ嫉妬深い蒼衣はどうやら気づいていないらしいが。


こんなことを思う俺だって、ほんの少しくらいだが、嫉妬深いのだと思う。


だから──


「寝かせない、は俺の台詞だ」


俺はそういって、不敵に笑った。


──


────それから数時間後。


気づけば本当に日が昇っていたことに驚くのは、また別の話だ。

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