第4話 洋画にありがちなアレ
事件は映画を見ている最中に起こった。
人類と宇宙から来た謎の生命体、その戦いが描かれている映画で、割と重めのストーリーだが、面白いなあ、と思いつつ見ていたところ。洋画にありがちな、あのシーンが流れてきたのだ。
「……」
「……」
ベッドの上、裸体の男女が絡み合いながら、濃厚なキス──いわゆる、濡場である。
……なぜか気まずいんだよなあ。
付き合っているし、そういうことだって日常的にしているので、こんな気分になるのもおかしな話なのだが、どうにもソワソワしてしまう。実家のリビングでテレビを見ていたときに、濡場シーンに遭遇したような、そんな感じの気まずさだ。
おそらく、俺はちょっとエロいシーンを見ていることを、蒼衣に見られたくないのだろう。当たり前じゃねえか。
あまりの気まずさに、俺はちらり、と目だけを動かし、隣の蒼衣を見る。すると──
「「──っ」」
目があった。
思わず、顔ごと視線を逸らす。
少し頬を染めながら、控えめにこちらを見ていた感じ、蒼衣も気まずさを感じていたらしい。
ひとまず、視線を前に戻そうと、姿勢を少し変えるべく体を動かす。すると、俺の指先が、蒼衣の指先へと触れる。
ぴくり、と一瞬跳ねるように動いた蒼衣の指が、俺の指をなぞり、絡めるように動いた。
「……」
「……」
お互いに無言のままだが、目の前の画面では、アレなシーンが流れ続けており、もちろん音声もそういう感じの音声だ。
それをまるで気にしていないかのように見る──ふりをしながら、蒼衣の方を盗み見る。
……視線、外したな。
どうやら、蒼衣もこちらをちらちらと見ているらしい。
すり、すり、と少しずつ、絡ませる指を増やし、手を握る。
もう一度、蒼衣をちらり、と見ると、視線が合った。
今度は逸らすことなく、むしろ吸い込まれるように、その瞳を見る。
目が離せない。聞こえていた映画の音が薄れていき、代わりに蒼衣の甘い吐息が鼓膜を揺らす。
「ん……」
小さな吐息と共に、蒼衣が目を閉じる。
吸い寄せられるそうに、顔を近づけた。
もうすぐ触れる──その瞬間。
どん! と大きな音が響いた。
「「──っ!?」」
思わず音の元である、テレビへと視線を向ける。
いつの間にか、濡場は終わっており、爆発の絶えない戦闘シーンがはじまっていた。
「……は、はは……」
「あ、はは……ぁ……」
俺と蒼衣は、どちらともなく乾いた笑いを漏らしつつ。
仕切り直して甘い雰囲気にする気分でもなくなってしまい、またテレビの画面を眺めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます