第3話 邦画、アニメ、その次は
──いや、あった。
敵味方主役脇役すべてを含めた完全無欠のハッピーエンド、それが、この映画にはあった。
恋愛映画を見たあとに流した、俺待望のアニメ映画。
原作にないオリジナルストーリーなので、映画限定キャラはどうせ、退場するんだろうな、と思っていたのだが──
「完全無欠だ……!」
「完全無欠です……!」
見終わった俺たちが、思わずそう呟くくらいにはハッピーエンドだった。
敵味方退場無し、敵の野望は打ち砕くも、分かり合い、異なるやり方でその目的は達成。最後まで誰も死なず、すべてのキャラクターが新たな目標と、新たな冒険へと旅立つという、ストーリー。
戦闘シーンは熱く、物語の根幹となるギミックにも説得力がある。100点満点中120点どころの話ではない。
「いやあ、面白かったな……!」
背筋がぞわぞわするほどの高揚感、そして、興奮。それが冷めないままに、俺はぐっ、と拳を握る。
「面白かったですね! すごい迫力でしたし!」
「戦闘シーンは最高だった……!」
これを映画館の音響と大画面で見れなかったことが、とてつもなく悔しい……!
「たまにSNSとかの感想で見る、ラーメン並を頼んだら、ラーメン大盛りチャーハンセット餃子付きが出てきた、しかもめちゃくちゃ美味い、みたいな気分だ」
「言いたいことはわかりますけど、それは普通に困りません……?」
「……言われてみれば困るな」
たしかに、と思いつつ、俺は両腕を天井へと伸ばす。
思っていたより体に力が入っていたらしく、伸ばした筋肉が緩んでいく感覚。それを覚えて、俺は背もたれ代わりのベッドへと体を預けた。
「ちょっと休憩するか」
「ですねぇ」
固まっていたのは蒼衣も同じだったのだろう。んんっ、と少し甘めの声を、吐息混じりに発してから、こちらはベッドではなく俺へともたれかかってくる。
「せっかくですし、もう1本くらい見ちゃいます?」
「そうだな。何か見たいのあるか?」
「特にはないです。適当にオススメとか、新作から探してみましょう」
そうは言いながら、蒼衣は動く気配もない。
部屋の空気は少し冷たいが、膝までかけたこたつ布団と、蒼衣と触れている部分だけが暖かい。
「……寝れるな」
「このまま寝たら、絶対風邪ひきますよ。少なくとも体は痛くなります」
「だよなあ」
ぼぅ、っと天井を眺めながら、次はどのジャンルがいいだろうか、と考える。
恋愛、バトル、ときたら、次はコメディ系だろうか。あれ当たり外れが大きいイメージなんだよなあ。
そう思っていると、もそ、と蒼衣が動く。
「邦画、アニメと見ましたし、次は洋画にしましょうか」
「あ、その手があったか」
言われてみれば、映画のジャンル分けというのは、そういうのもあったな。
「どれにします?」
ベッドへと預けていた体を少し起こし、画面へと視線を向ける。オススメ欄の洋画が映っているが、どれも見覚えがないものばかりだ。
「よし、任せる」
「えぇー……そうですねぇ……」
カチカチとリモコンのボタンを押しながら、サムネイル画像が流れていく。
うむ、全然わからねえ。
何か惹かれるものが流れていないか、と思いながら見るも、案外サムネイルだけではピンとこないものだ。
「うーむ……」
「先輩、1から10で、数字言ってください」
「ん? 数字?」
「はい。直感でいいので、どうぞ!」
「お、おう? じゃあ、6?」
よくわからないまま、俺は適当に思い浮かんだ数字を口にする。
「では、ここから、いち、に、さん、し、ご、ろく──はい、次見るのはこれで決定です!」
そう言って、蒼衣は再生ボタンを押した。
画面が暗転し、映像が切り替わる。
「なるほど。たしかにこれなら悩む必要もないな」
「そういうことです。それに、予想外の出会いができるかもしれませんし」
「それもそうだな。……で、これ、何だ?」
「わかりません。タイトルも見てないです」
「えぇ……」
アクションとか、コメディとか、そういうのならいいのだが、ホラーとかはちょっとなあ……。
そう考えながら、微妙な顔をする俺に対し、蒼衣はむしろ楽しそうだ。
「何がくるのかまったくわからないのも、ワクワクしませんか?」
「まあ、それもあるにはあるんだが……」
それよりも、ホラーとかがくるのが怖いんだが……。見れなくはないが、こっちも身構える必要があるしなあ。
とは思うものの、どうせホラーなら開始数分でわかるだろう。そのときは、そのときで身構えればいい。
そう思い、俺もまた、画面へと視線を向ける。
開幕から、よくわからない生命体と戦闘機が空を飛び交っていた。
──うむ、SFだこれ。どう見てもホラーじゃねえや。
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