第8話 場所は違えど同じこと

ふわり、というよりも、重い沼から浮き上がってくるように、ゆっくりと目が覚める。


「……んん……いッ……」


やけに暖かい空気の中、目を開くと、暗くも明るくもない、微妙な明るさだ。比較的薄いこたつ布団から、照明の光が漏れているらしい。


頭から被った布団から出ようと少し動くと、ぱきり、と肩あたりから音が鳴る。どうにも身体のあちこちが痛む。


「……ああ、そういえば、こたつか……」


それでか、と納得しつつ、他とは違い、びりびりと痺れを伝えてくる腕の方を見ると、蒼衣がしっかりといつものポジションに収まっている。


「……ダメだなこれ……」


こっそりと腕を引き抜こうとするが、ほんの少しずらすだけでも蒼衣が頭を同じように動かしてくる。これ、本当に寝てるのか?


すす、すすす、と動かせば動かすほどついてくるので、少し面白くなってくる。


どれくらいの速度までならついて来れるのだろうか。


そんなことを思い、少しずつ速度を上げていくと──


「んぅ」


ひしっ、と腕を掴まれる。


「動かさないれくらさい……」


おまけに、寝言付きだ。


「すまん……」


こうなってしまっては、もう起こすか寝直すかの2択だ。


時刻としては、3時を回った頃なので、まだまだ寝足りない。


かといって、この体勢で寝るのは、すでに痛む身体的にはしんどいのだが……。


「これを起こすのは、無理だよなあ」


穏やかな寝顔で、俺の腕を離すまいと掴み、眠る蒼衣。きゅ、と小さく握られた手には、俺の服の裾が巻き込まれている。


「……仕方ねえ、このまま寝直すか」


ぱきぱきと背骨から音が鳴るのを感じながら、腕はそのままに体を動かし、軽くほぐしたあと、元の位置へと寝転がる。


うーむ、床が硬いなあ。


そんなことを思っていると、想定より早く眠気が迫ってくる。


案外、身体が痛くても眠れるらしい。


うつら、うつらとするたびに、照明からの光が眠りに落ちるのを邪魔してくる。


消せばよかったな……いや、蒼衣がいるから、消しに行けないな……。


薄れゆく意識の中、そんなことを思いつつ。


俺は眩しさから逃れるように、目を閉じ、体の向きを変える。


ふわ、と鼻先を掠めた香りは、不思議と安心感があった。


普段はどきり、とさせてくるくせに、こういうときには安心させる、不思議な甘い香りだ。


……いい、匂いだな。


無意識に、その香りの主を抱き寄せると同時に、完全に意識が落ちていく。


結局、この体勢で寝るのが1番だなあ。

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