第4話 いつもと違う道、いつもと違う店

大学というのは、正門以外にも出入り口が存在する。


特に、街中にあるキャンパスでは、大小関わらず多くの出入り口があり、東西南北、どの方向にも出られるようになっていたりするのだ。


今、俺たちが出てきた場所もそのひとつ。


人がすれ違うことができる程度の、小さな出入り口だ。


「お、やっぱりこっち側は凍ってないな。ちゃんと雪だ」


足元を確かめるように、何度か踏み込んでみるが、先ほどとは違って沈み込むような感覚だ。


「こっちの道からだと、駅に向かうには遠回りですからね」


「だな。駅にしか行かないやつらはこの道、知らないかもな」


行きと同じように、腕に巻き付いた蒼衣とともに、雪道を進んでいく。


道が凍っていないとはいえ、やはり雪道。気を付けておかないと、ふとした瞬間に滑りそうだ。


いつもより、視線を下に落としながら歩いていくと、白と灰色の世界に、場違いな色が飛び込んでくる。


カラフルな色の持ち主は、とある店舗の内側からかけられた、大きなタペストリーだ。


どどん、と俺よりも巨大に描かれているのは、チョコレートのかかったドーナツ。そういえば、こちら側にはドーナツ専門店が建っていた。


ちらり、と店内を覗いてみると、どうやらこの極寒の中でも営業しているらしい。ここにも労働の犠牲者がいた。


現代日本の悲しき労働状況にうんざりするが、それはそれとして。


「せっかくだし、ドーナツ買って帰るか」


「ドーナツ! いいですね! 買いましょう!」


きらり、と目を輝かせる蒼衣が、いつもより控えめに袖を引く。


「はしゃいで転ぶなよ?」


「大丈夫ですよ。そのときは先輩に引っ張ってもらいますから」


「それ多分、俺も転けるんだよなあ」


「信じてますよ、先輩」


「その信頼だけは重すぎる」

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