第3話 凍った道か雪道か

参加者が半分以下の講義を無事に終え、講義室のある建物から外へ出る。


白い息が空へ上がっていくのと反対に、ちらちらと白い雪が舞い降りてくる。


冷えた空気が肌を指すようで、なけなしの抵抗とばかりに口元をマフラーに埋める。


適当に、蒼衣と合流するまでに何か温かいものでも買おうか、と思っていると、視線の先に見覚えのある姿が見えた。


大学の構内はありがたいことに除雪されていて、主要な道の真ん中には、雪は残っていない。両サイドには灰色の汚い雪が積み上げられているのだが。


「先輩、お待たせしました」


いつもよりかは少しスピードを控えつつ、こちらへ駆け寄ってきた蒼衣が、ぽす、と勢いのままに腕へと巻きつく。


「いや、今出てきたところだ」


「良いタイミングでしたか。それはよかったです」


そう言って、笑った蒼衣がふるり、と体を揺らす。


「……やっぱり寒いですね」


「まだ雪降ってるからな……」


話すたびに、ほわ、ほわ、とわたのように白が登っていく。


歩く歩幅は、やはりいつもより狭い。とはいえ、行きよりはマシだ。雪の上ではないというのは、安心感が違う。


「にしても、びっくりするくらい学生、いませんでしたね」


「まあ、これだけ降っていれば諦めるやつも多いだろうしなあ。まだ降ってるし、帰れなくなる可能性もあるからな」


「たしかに、それはそうですね」


幸い、今のところは吹雪になったりはしていないが、いつまた天気が崩れてくるかはわからない。かといって、この辺りは田舎のほうだ。駅前にホテルなんてないし、泊まれるところなんて、せいぜいカラオケ程度だ。


「こういうとき、家が近くで助かりますねえ」


「普段からギリギリまで寝れるし、助かってるけどな」


「結局起きてないじゃないですか……」


「寒くて耳の調子が悪いな、よく聞こえない」


「そんな症状はじめて聞きましたけど!?」


そんな話をしながら大学を出ると、先ほどまで整備されていたのが嘘のように、踏み固められた雪道が広がっている。


「先輩、あれ、絶対滑ると思いませんか」


「奇遇だな。俺も滑ると思う」


「……お姫様抱っことか、したくなりませんか」


「抱えた俺が転けたら共倒れだぞ」


そう言いつつ、2、3度片足で踏み込んでみるが、足先が沈む気配はなく、返ってくる感触は硬い。というか、少し斜めに力を入れれば、靴底が滑るような感覚がある。間違いなく滑るな、これ。


これなら、まだ積もったばかりの雪の上を歩く方がマシだ。


「人通りの少ない道から帰るか」


「ちょっと遠回りになりますけど、仕方ないですね」


「怪我するよりは寒いほうがマシだからなあ」


「頭を打ったりしたら、大変ですからねえ」


致し方なし、と揃って白いため息を吐いて、進む方向を変えようと右を見る。


その瞬間、学生の集団のうち、ひとりが足を滑らせたのだろう。全員がドミノのようにすっ転んでいた。


どうやら、こちらの道も凍っているらしい。


「……大学の中、通るか」


「そうですね、そうしましょう」

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