エピローグ 背徳的な晩酌を

あれやこれやと元旦のイベントを終えた俺たちは、適当に正月特番を流しつつ、晩酌に入っていた。


今日のお供は、正月前に買い溜めていたお菓子系のおつまみと、昼間にショッピングモールで買った桃のリキュールだ。


グラスに氷を入れ、とくとくと注ぐと甘い香りがふわりと漂う。


「うわぁ、いい匂いです!」


「だな。飲む前からわかる美味いやつだな」


「とろみもありますし、濃厚なやつですよねこれ!」


「だと思うぞ。とりあえず、飲んでみるか」


「はい!」


蒼衣にグラスを手渡して、自分の分を注ぎ、持ち上げる。


こつん、と優しめにグラスをぶつけて、口をつけた。


「お、これは……」


「甘いです! すっごく!」


「想像以上に甘いが、美味いな……!」


「果肉が入ってるのがいいですよねぇ」


「わかる。果肉入りってテンション上がるよな」


頬を緩めた蒼衣が、ふへへ、と笑ってグラスを口をつけてはまた緩める。どうやら、相当お気に召したらしい。


「飲みやすいが、度数高めだからちょっと気をつけろよ?」


「はーい!」


そう返事をしながら、ちみり、ちみりと酒を口にする蒼衣。


俺の忠告を受けての飲みかたなのだろうが、ちょっとあざとくてこれまた可愛い。酒を飲んでいても感じる小動物感、ちょっと癒される。


ぽす、と頭に手を置いてみると、心地良さそうに擦り付けてきた。これもう完全に小動物なんだよなあ。


妙に甘い気持ちを流し込もうと、グラスを煽る──が、中身は激甘リキュールだ。余計に甘い。


これ、美味いが量は飲めないな。


せめて、何かで割るほうが良さそうだ。まあ、そもそもリキュールって割るためのもののイメージだが。


オレンジジュースとかで割っても美味そうだが、それもまためちゃくちゃに甘そうだ。それに、そもそもの話、おそらくオレンジジュースがこの部屋の冷蔵庫にはない。


仕方ないので、もうひと口飲むが、やはり甘い。しょっぱい系のつまめるものが欲しいところだ。


さて、どれを食おうかな──と、視線を机の上に向けたところで、口元に何かを差し出される。


とりあえず口にしてみると、ぱり、と良い音がなると同時に、塩と油の味が口に広がった。ポテトチップスだ。


「そろそろしょっぱいものが欲しくなる頃かと思いまして」


「タイミングが完璧すぎるんだよなあ」


「デキる彼女なので」


「自分で言うのか……。まあ、否定はしないが」


ふふん、とドヤ顔の蒼衣に苦笑しつつ、机の上のポテトチップスへと手を伸ばす。


塩気のあるつまみに、甘い酒。うむ、これもまた最高なんだよなあ。


しかし、まあ、なんだ。


「この時間に、酒飲みながらポテチ食うのは、あれだな。確実に太るな」


「しかもお正月なので、色々食べるのに動きませんからね。正月太りは確定ですよ……」


先ほどまでの明るい表情とは打って変わって、げんなりとした蒼衣が自分の頬を両手で挟んだり、二の腕を摘んだりしている。柔らかそうで触ってみたいが、さすがにこのタイミングは怒られそうだな……。


「適当に、散歩でもしてカロリー消費するか。明日から」


「それ、やらないやつじゃないですか」


「いや、今日はもう夜中だしな……。あと、昼間動いたからセーフってことで」


「あれは動いたに入るんですかね……」


そう言いながら、結局ポテチに手を伸ばす蒼衣。わかる、欲には勝てないよなあ。


「まあ、正月休みだからな。あとのことはあとで考えるってことでいいんじゃないか?」


「それで後悔するのは目に見えてますけど……。まあ、今日だけは後回しにしちゃいましょうか」


「おう」


にやり、とふたり揃って悪い笑みを浮かべてから、ポテトチップスに手を伸ばす。


うむ、完璧な塩味。


そして、次は酒。


うむ、これもまた、甘くて美味い。


──やはり、晩酌は最高だな。


寝落ちまっしぐらの楽しみかたをしつつ、俺と蒼衣は談笑とともに元旦の夜を過ごすのだった──

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