第15話 餅が示すのは?
「じゃーん、蒼衣ちゃん特製お雑煮です」
その声とともに目の前に置かれたお椀の中には、透き通る出汁と、それに浮かぶにんじん、大根、しいたけ、ほうれん草に鶏肉、そして餅と、具沢山のお雑煮が入っている。
「お、前より豪華になってるな」
「本日は具沢山バージョンです。日が経つにつれて、具がなくなります」
「なぜ均等にしないのか……」
「初日くらいは豪華に、と思いまして。大丈夫です。具が少なくなっても味は美味しいはずですから!」
ぐっ、と胸の前で手を握る蒼衣に、俺は苦笑しつつ、視線をお雑煮に戻す。
ふわり、と香る出汁が、軽食しか口にしていなかった胃を刺激する。
「先輩、どうぞ」
「お、さんきゅ」
そんな俺を見てか、くすり、と笑う蒼衣から、箸を受け取る。
正面に蒼衣が座るのを見届けてから、揃っていただきます、と呟き、まずは出汁を飲む。
「おお……うま……」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう!」
どや、と自慢げな表情を浮かべながら、蒼衣も出汁を口にすると、ほわ、と表情が緩んだ。
「我ながらいい出来です……。お出汁は落ち着きますね……」
「わかる。このちょうどいい感じの出汁、いいよな……」
もう一度、ずず、とお茶を飲むように出汁を飲み、それから具へと移る。
「やっぱり肉が入ってるのがいいよなあ」
そう言ってから、箸でつまんだ鶏肉を口に放り込む。うむ、美味い。
「白味噌のお雑煮って、お肉入ってないんでしたっけ」
「入ってないんだよなあ。にんじんと大根くらいのイメージしかない」
「結構シンプルな感じなんですね。まあ、お味噌ですし、そっちがメインってことでしょうか」
「多分な。あれはあれで美味いんだが」
話をしながら、ほいほいと具を食べていく。ほうれん草が思っていたよりいいアクセントになっている。これ美味いな。
そうこうしているうちに、具がなくなり、残りは餅だけになる。
火傷しないよう、控えめに噛み付くと、にゅーん、と餅が伸びた。
……んん?
「おもっはよひ、のひるあ」
「なんて言ったんです? すごいお餅伸びてますけど」
「おまへわはっへるはほ……」
餅を箸に巻き付けながら、距離を稼ぐとようやくちぎれる。伸びすぎだろこれ……。
「これ、いつもの餅と違うのか?」
「普通の市販品ですけど……。わたしはそんなに伸びないですし」
そう言って、蒼衣もぱくり、と餅をくわえ、伸ばしてみせる。……ふむ、普通にちぎれたな。
「俺だけ、というかこれだけなのか……? なんで……?」
「今年の先輩は伸び代がある、ってことじゃないですか?」
「……身長か?」
まだ伸びるのか……。そんなことを思っていると、蒼衣がじとり、と視線を向けてくる。
「それ以上高くなられると届かなくなるのでやめてください。ただでさえ、身長差あるんですから、今で十分です。……って、違いますよ! 身長じゃなくて、精神的な成長とか、運とかです」
「成長はともかく、運に伸び代ってあるのか……?」
「あると思いますよ。今年は運がいいとか、悪いとか。厄年だー、とか関係なく、そういうのあるじゃないですか。今年の先輩は運がいいかもしれませんよ。大吉でしたし」
「まあ、そう言われてみれば、あるな」
「ですです。なので、きっと先輩は今年、幸運です」
「まあ、そういうことにしておくか。……たかが餅がめちゃくちゃ伸びただけの話なんだけどな」
「前向きに捉えておけばいいと思いますよ。新年ですし!」
そう言って、はむ、と餅をくわえ、伸ばしてみる蒼衣に苦笑しつつ、俺もまた、餅を口に運ぶのだった。
……やっぱりこの餅、異常に伸びるな……食いにくい……。
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