第11話 おみくじチェック前半戦

お参りを終え、またも人混みに流されながらたどり着いたのは、おみくじコーナーだ。


仮設テントの下に並べられた六角柱の中には、数多の数字が書かれた棒が入っており、その数字を隣のテントで伝えれば、おみくじの紙をもらえるシステムになっている。


「どっちから引きますか?」


「俺はあとでいいぞ」


「そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて」


そう言って、蒼衣が六角柱を持ち上げる。


「よしょっ! やっぱり重いですね、これ」


じゃんじゃかじゃんじゃかと派手に音を立てて中身を混ぜたあと、「えい!」と掛け声とともに、ひっくり返す。すんなりと棒が出ず、2回ほど上下に振ると、ひょこ、と1本飛び出してくる。


「えー……59だな」


「わお、微妙そうですね。はい、次は先輩どうぞ」


「ん、さんきゅ」


毎度のことながら、やっぱり重いなこれ、と思いつつ、受け取った六角柱を上下左右に満遍なくシェイクする。うるせえなこれ。


逆さを向けると盛大な音と共に、あっさりと棒が飛び出してくる。


「ええと、19ですね」


「お、結構早めの番号だな」


「おみくじの番号って、意味はあるんですかね?」


「いや、多分ないと思うぞ」


「やっぱりそうなんですかね」


と、そんな話をしている間に、おみくじを受け取る番になる。受付の巫女さんに番号を伝え、100円と引き換えに短冊状の紙を受け取った。


少しだけ人混みから離れたところへ移動すると、蒼衣がくい、と俺の手を引っ張る。


「先輩、せーので見ましょう」


「わかった。じゃあいくぞ」


「「せーの!」」


ばっ、とふたり揃って紙をひっくり返す。


まず見るのは──


「お、大吉」


「あ、わたしも大吉です!」


「今年は運が良さそうだな」


「昨年って……あ、先輩は吉だったんでしたよね?」


「おう、散々なこと書かれてた記憶があるな……」


やれ勉強しろだの、失せ物は見つからないだの、好き勝手に書かれていた。


今年は大吉だし、さすがにそれはないと思いたい。


「じゃあ、肝心の内容チェックいくか」


「はい。まずは失せ物ですね。わたしは……『近くにあり』だそうです」


「無くした物は?」


「ないです」


「まあ、そうだよなあ。俺は『よく探せ。見つかる』らしい」


残念ながら、蒼衣とは違って根気よく探す必要があるらしい。面倒なんだよなあ。


「よかったですね。先輩も見つかるみたいですし」


「まあ、よく探さないとダメらしいけどな」


「出るだけマシだと思いますよ?」


「それはたしかにそうだな。次は……一応待ち人か?」


「これ、前にも思いましたけど、誰を待ってるんでしょう? 先輩ですかね?」


「俺とお前、基本一緒にいると思うんだが。まあ、とりあえず見ておこうと思ってな。俺は来るらしい」


「わたしも来るって書いてますね。これはつまり、先輩がデートに遅れずに来るってことでいいんでしょうか」


「俺、デートで遅れたことないよな!?」


「ないですよ。冗談です」


くすっ、と笑った蒼衣が、次の項目を指差す。


「次は、出産ですね」


「これ、関係ないんだよなあ」


「わたしは関係あるかもしれません。先輩とうっかり……」


「洒落にならない冗談はやめような……」


きゃあ、と声を出しつつ、ふざけている蒼衣とは裏腹に、俺は変な汗をかきつつ、蒼衣のおみくじを覗き込む。


……一応、無事に産まれるらしいです。

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