第9話 その指先が触れるのは

なんだかんだと屋台くじをスルーして、たこ焼きの屋台にたどり着いてから少し経ち。


列に並んでたこ焼きを買った俺たちは、椅子の並ぶ休憩スペースにて、随分と遅い昼食をとっていた。


たこ焼き以外にも、唐揚げに鈴カステラ、そして、物珍しさに惹かれて買った、デザート代わりのいちご飴。はじめて見たのだが、りんご飴のいちごバージョンらしい。


「そういえば、前も鈴カステラ買ったな。ベビーカステラとは実は別物、みたいな話したよな」


「しましたね。何が違うか、覚えてますか?」


「……覚えてねえな。ヒントをくれ」


「外側に」


「外側に……?」


少し考えるが、まったくわからない。外側に……?


20秒ほど経ってから、わからん、とばかりに首を振ると、蒼衣が次のヒントを出す。


「お砂糖が」


「……ついてるかついてないか、だな。さすがにそこまで言われたらわかるんだよなあ」


もはや、ヒントではなく答えなんだよなあ。


そう思っていると、蒼衣がぴん、と人差し指を立てる。


「では、ここでさらに問題です。今日買ったのは鈴カステラですが、お砂糖はついているでしょうか、ついていないでしょうか」


「……」


ちらり、と袋を盗み見るも、紙袋だったせいで中身は見えない。カンニングは許されないらしい。


うーむ……。考えてもわからないし、思い出せる気配もない。


ここは、直感に頼るしかなさそうだ。


「……ついてるほうだ」


「では、答え合わせです。どうぞ」


そう言って、蒼衣は袋の中からひとつ取り出し、俺の口元へと運んだ。


ころん、と口の中へと入ると、甘い香りがふわりと広がる。ついでとばかりに、細くて白い指先が、俺の唇に一瞬触れる。


思わぬ接触にどきり、としつつ、俺は食感を確かめた。


「……ザラザラしてるし、正解、か?」


「はい、正解です。お砂糖が振ってあるのが鈴カステラ、何もついていないのがベビーカステラです。今度は覚えておいてくださいね?」


「覚えてるかは五分五分だな」


「覚える気がないんじゃないですかー」


くすり、と笑いながらそう言った蒼衣に、俺は手元のたこ焼きを爪楊枝で突き刺し、彼女の口元に差し出す。


「蒼衣が覚えてるなら、俺が覚えてなくてもいいだろ」


「それはちょっと違いません!?」


なんて言ったあと、たこ焼きをもこもこと頬張る蒼衣を見ながら、俺は思う。


……またこのクイズをするのなら、想定外の接触もあるんだろうなあ。


普段触れる可能性のないところだからこそ、なんだかどきり、としてしまう。


しかし、蒼衣はまったく動じなかったよな……。


気づいていないのか、それともそういう接触に慣れてきてしまっているのか……。前者なら構わないが、後者なら由々しき事態だ。


些細な接触ではあるが、そういうことに刺激を感じなくなるのは、慣れてきた証拠だ。だからこそ、刺激が足りなくなって退屈を感じてしまう可能性が──


そこまで考えて、自分の思考がずいぶんと蒼衣のようになっていることに気づく。


俺も、ずいぶんと蒼衣の影響を強く受けているらしい。ある意味では嬉しいことだが、少し気恥ずかしいな……。


そう思っていると、蒼衣がくい、と俺の服の袖を引っ張る。そちらを見ると、神妙な顔をした彼女が、ぽつり、とこぼすように言葉を漏らす。


「……先輩、これって指先舐めたほうがドキッとします?」


「……まあ、する」


「そうですか。では、リクエストに応えます」


俺のほうを流し目で見る蒼衣が、ぺろり、と指先に舌を触れさせた。


「べ、別にリクエストしたわけではないんだが……」


そう言いつつも、俺の視線は蒼衣の口元へと吸い寄せられる。ごくり、と唾を飲み込むと同時、彼女の頬が赤く染まっていることに気づく。


この調子なら、心配する必要はなさそうだな……。


そんなちょっとした安心感と、それとは真反対の心臓が跳ねる感覚を同時に味わい、それを落ち着かせるように、まだ熱いたこ焼きを口の中に放り込んだ。


……これもまた、一応間接キスなんだよなあ。

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