第8話 新鮮な可愛い蒼衣ちゃんが楽しめちゃいますよ?
ショッピングモールをひと通り巡り終えた俺たちは、少ない戦利品を手に持ちつつ、次なる目的地──神社へと向かっていた。
昨年は買いすぎて一度家に帰る羽目になったのだが、今年は福袋が買えなかったこともあり、それほど荷物がないので直接向かうことにしたのだ。
「美味しそうなお酒が買えて、よかったですね!」
隣を歩く蒼衣は、なんだかんだで上機嫌だ。福袋が買えなかったショックは振り切ったらしい。
「そうだな。今日の夜にでも、ちょっと飲んでみるか」
「いいですね! お正月から晩酌……大人な感じです」
「……まあ、20歳になったときはそう思うよなあ」
「先輩は思わないんですか?」
「最近は思わないな」
日常化してしまうと、そこまで感慨深くはならない。
まあ、酒では思わなくなったが、ブラックコーヒーをはじめとするものには、まだ大人っぽさを感じることもあるので、まだまだ子ども、ということなのかもしれない。もう21歳なんだよなあ。
「……歳を重ねたからって、大人にはなれないんだなあ」
「何をしみじみ言ってるんです?」
「いや、人ってそうそう成長しないんだな、と思ってな」
わかったような、わかっていないような微妙な表情の蒼衣に苦笑を見せつつ、ゆるりとしたペースで歩を進める。
ショッピングモールの喧騒が失われてから、しばらくすれば、今度は神社周り──屋台の喧騒が見えてくる。
冷たい風にのって、たこ焼きや焼きそばだろうソースの香りが漂いはじめ、食欲が刺激される。
「そういえば、急いで出てきたから昼飯食ってなかったな。腹減った」
「先輩もこの匂いで思い出しちゃいましたか。わたしもお腹空きましたし、少し遅いですけど、屋台でお昼にしましょうか」
「そうするか。とりあえずたこ焼きは食いたいな。ソースの匂いが美味そうすぎてやばい」
「ですね。まずはたこ焼きにしましょ──待ってください先輩、くじです。屋台くじがあります」
「蒼衣、それに近づくのはやめなさい」
くじの屋台を見つけた蒼衣が、きらり、と目を輝かせる。ぐい、と引かれそうになる手を逆に引き返し、逆の手でぽす、と頭に手刀を落とす。
「ちゃんと思い出せ。あの箱の景品、見たことないか?」
それから、俺はひとつの箱を指差した。それは、パッケージが随分と色褪せた、特撮ヒーローの変身グッズだ。
「……あれ? わたし、あんまり特撮とかわからないんですけど、あれは見たことある気がしますね……」
はて、と首を傾げているが、それも当然だ。
「あれは3年前に放送していた特撮ヒーローだ。で、あの景品、前回の正月もあった」
「……つまり、1年間眠っていた、ということですか……?」
「眠っていたならともかく、夏とかにも出店してたなら、その間1回も当たってないことになる」
「つまりは当たりはない、ということですね……」
「そういうことだ。というかお前、毎回くじを引こうとするよな……」
「くじがあると引きたくなりません?」
「まあわからなくはないんだが……。俺はお前がソシャゲのガチャとか、ギャンブルとかにハマらないか心配なんだよなあ」
「それは大丈夫です! わたしがお金に厳しいのは先輩も知っての通りですし、どうせ課金するなら先輩に課金するか、自分に課金します」
ふふん、と謎のドヤ顔の蒼衣に、今度は俺が首を傾げる。
「自分にはともかく、俺に課金ってどういうことなんだ……」
「具体的には、夕飯が豪華になります」
「それはいいな。それならどんどん金をかけてほしい」
真面目な顔で頷くと、蒼衣が一瞬嬉しそうな表情をしてから、にやり、と笑みを変える。
「ちなみにわたし自身に課金すると、新しい服を買ったりするので、新鮮な可愛い蒼衣ちゃんが楽しめちゃいますよ? 先輩はどっちがいいですか?」
「新鮮な蒼衣ってなんだ……?」
わざとらしくそう言いながら、俺は考える。
究極の2択なんだよなあ。
蒼衣の作る美味い飯が豪華になるのは最高だ。
だが、蒼衣の可愛い姿を見たいのも事実。
……まあ、元々蒼衣は可愛いし、作る飯は美味いので、そのままでも構わないのだが。
それがさらにランクアップするのなら、願ったり叶ったりだ。
しかし、当然のことながら資金は有限。そのどちらも叶えるために俺ができることは──
「俺も課金するかぁ……」
「先輩は欲張りさんですねぇ」
俺の呟きに、くすくすと笑う蒼衣が、抱きつく俺の腕に少しだけ力を入れたのは、きっと気のせいではないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます