第5話 振り返り、想いを馳せて。

時刻は23時30分。


あと少しで年越し、というところで、俺と蒼衣はふたりで大きめのブランケットにくるまりながら、垂れ流しにしているバラエティ番組を流し見ていた。


「今年も、色々あったなあ」


酒のせいで、ぽやぽやとした蒼衣にぴったりとくっつかれながら、俺はぽつり、と溢す。


「そうですねぇ。色々ありましたけど、楽しかったです」


「それはそうだな」


本当に、今年も色々あった。


年明けから福袋を買いに行ったり、春には花見をしたり。夜の大学で花火も見たし、単発バイトも一緒にした。


蒼衣と泊まりがけで温泉旅行にも行ったな。


バレンタインには、人生ではじめての本命チョコを貰った。あれはマジで嬉しかったんだよなあ……。


でも、何より、間違いなく。


「今年1番の出来事は、蒼衣と付き合ったことだよなあ」


「そうですねぇ。今年は濃い1年でしたね」


「だな」


ぐりぐりと押し付けられる頭に手を伸ばし、さらさらとした髪を弄ぶ。これも、今年できることになったことのひとつだ。


「来年もまた、楽しくやれるといいな」


「そうですね。楽しくいきましょう」


ふわり、と笑う蒼衣に、俺も笑う。


来年は何をしようか。またどこかへ行くのもいい。


美味いものを食って、気になるところへ向かったり。


はたまた、家でごろごろと過ごしたり。


たわいもない話をしながら、そうして過ごしていく新しい年の日常に想いを馳せる。


「来年、やりたいこととかあるか?」


「やりたいことですか。とりあえず、年が明けたらまずは福袋は買いに行きたいですね。あとは、初詣とか」


「なるほどな。まあそのあたりはすぐにやれることだとして、だ。ほかには、何かないのか?」


「ほかには、ですか。ええと……あ! あれやってみたいです! タコパ!」


「タコパ……ってあれか、たこ焼きパーティか」


「ですです。たこ焼き器買って、好きなもの中に入れて……って、楽しそうじゃないですか?」


「まあ確かにそうだな。……ロシアンたこ焼きとかもやるか」


「……わさびいっぱいとかはやめましょうね」


「まあ、食える範囲にしておこうな」


「……とか言って、わさびいっぱいとかにしたら、次の日にさんま出しますからね。絶対骨取ってあげません」


「それは勘弁してくれ……」


思った以上に本気の声が出た俺に、蒼衣がくすくすと笑いを漏らす。


「大丈夫ですよ。変なことをしなければ、ちゃーんと取ってあげます」


「助かる……」


そう言いながら、俺も苦笑も漏らした。


うーむ、しかし、後輩に魚の骨を取ってもらう先輩の図、あまりにも威厳がなさ過ぎるんだよなあ……。まあ、俺たちにとって、その光景は日常茶飯事なのだが。だって骨取るの面倒だろ……。


年の瀬に何を考えているのやら、と思いながら、これもまた、蒼衣との日常だなあ、と感じていると、テレビの画面が慌ただしく年末の挨拶をする生放送のバラエティから、パッと切り替わった。


先ほどまでとは打って変わって、静寂。


その中に、ごぉん、ごぉん、と鐘をつく音が響く。


その鐘の音を聞きながら、俺は蒼衣の頭をまた撫でつつ。


除夜の鐘って、煩悩を祓うためにつくものだった気がするな。


そう思いながら、俺は欲望のままに、蒼衣の髪を撫で続ける。


呼応するように、蒼衣が頭を俺の胸に擦り付け、すん、と匂いを嗅いでいる。


「……煩悩、祓えてないなあ」


そう呟く俺に、蒼衣がとろん、とした瞳で、小悪魔のように笑って。


「……いいんじゃないですか。わたしだけになら」


それを免罪符に、俺は甘い香りをいっぱいに吸い込んだ。


ごぉん、とまたひとつ、鐘の音が鳴り響き、年が明けていく──

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