第4話 今年もしっかりと掴まれて

美味い熱燗に気を取られがちではあるが、本日のメインは酒ではなく、年越しそばだ。


ずぞぞ、と音を鳴らしながら、そばをすする。


瞬間、口の中に広がるのは、出汁の優しい香りだ。


昨年も思ったが、蒼衣の作る年越しそばは格段に美味い。


飲み込むと同時に、またそばをすすると、今度は軽く振りかけた七味の辛味がアクセントになり、少し違った味が楽しめる。


うーむ、美味い。美味いのだが。


「たしかに昨年より美味いんだが、何が違うのかって言われてもわからねえな……」


なんというか、コク……というのも違うし、味が濃い、というわけでもないし……。


「なんだろうな……。奥行き? 違うな……深み? みたいなのがある、ような? 確実に美味くなってるんだが、何が入ってるとかはわからねえ……」


うーむ、と唸っていると、蒼衣がくすり、と笑う。


「このまま待っていても正解は出なさそうですし、答え合わせといきましょうか」


そう言って、蒼衣が机の下から取り出したのは、密封された袋に入った粉末だ。


「じゃじゃんっ! 答えはあごだしでしたっ!」


「あごだしってたしか、トビウオだったよな?」


「そうです。この間売ってて、気になったので買っちゃいました」


そう言って、蕎麦つゆを飲んだ蒼衣が、ほわり、と緩んだ顔を見せる。


「これだけ美味しくなるなら、ちょっと高くても買った甲斐がありますねぇ」


「高かったって、いくらぐらいなんだ?」


「ちょうど4桁です」


「この量で!? マジで結構高いな……」


「たしかに高いですけど、ひとつまみくらいしか入れなくていいので、実は長い間使えるんですよ。だから、長い目で見ればそんなに高くはないと思いますよ」


あと美味しいですし、と澄ました顔で付け加える蒼衣に、俺は苦笑しつつ、そばをすする。


まあ、間違いなく美味い。


多少高めの調味料で、それで蒼衣の料理が美味くなるのなら、アリもアリ、大アリだな。


……今年も胃袋をしっかりと掴まれ続けた1年だったなあ、と自分に呆れつつ、俺は今年最後の蒼衣の手料理を楽しむのだった。

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