第6話 居酒屋帰りが纏うもの

立て付けの悪い扉を開いて、自室へと入る。


「ただいまでーす」


「おかえり」


「先輩も、おかえりなさい」


「おう、ただいま」


玄関でそんなやりとりをしながら靴を脱ぎ、リビングへと向かう。


「……うわ、なんだか服が臭いです」


「居酒屋特有の油系の匂いがするな……」


すんすん、と自分の服に鼻を寄せて、顔をしかめる蒼衣が、じりじりと俺から距離を取る。


「……先輩、先にお風呂入らせてもらってもいいですか」


「別にいいが……。どうして離れた?」


「先輩にだけは絶対にわたしはいい匂いだと思われたいので」


そう言って、そそくさと浴室へと向かっていく蒼衣。


その後ろ姿を見ながら、俺は密かに安堵する。


……俺が臭いから離れたのかと思ったぞ……。


いや、実際、油の匂いが染み付いていて、自分でも臭いとは思う。今すぐに着替えてしまいたいくらいだ。


とはいえ、風呂に入る前に着替えてしまうと、着替えたあとの服にまた匂いがついてしまう気がする。


ここはまあ、耐えるしかないだろう。


「……」


やばいな、やることがない。


その上、帰宅して落ち着いてきたこともあり、急激に眠気が襲ってきている。


徐々に意識がぶつ切りになってきていて、もうそれほど余裕がないことが自分でもわかる。


……ダメだな、これは。


まあ、寝たところで今はベッドではなく床に座っている──いや、いつのまにやら寝転がっているが──ので、すぐに腰が痛くなったり、寒くなったりで目が覚めるだろう。


それに、シャワー上がりの蒼衣も起こしてくれるだろうしな。


「……」


少しくらいならいいだろう。


そう思い、目を閉じる。


同時に、浮かぶような感覚が襲ってきて、俺は意識を手放した。

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