第3話 クリスマスも年越しも

飲みはじめて、1時間ほどが経った。


すでに俺はいい感じにアルコールが回っていて、少し気分がふわふわとしている。


これが家なら、すぐに横になって眠ってしまうところだが、今日は居酒屋の店内だ。


流石の俺も、外では寝ることはない。


正面にいる蒼衣は、というと、それほど酔っている様子はなさそうだ。


顔はほんのりと頬が赤いくらいで、言動も、特にいつもと変わりはない。強いて言うのであれば、いつもより食べさせろとの要求が多い気がする程度だろう。今も俺の手からポテトフライを食べているし。可愛いなこいつ。


「にしても、よくよく考えてみると変な時期ですよね」


「ん? 何がだ?」


「忘年会です。まだクリスマス前じゃないですか」


人差し指を頬に当てながら、首を傾げる蒼衣。


「あー、それか。ちゃんと理由はあるぞ」


「そうなんですか?」


たしかに、それは疑問に思うところだろう。一般的には、忘年会といえば年末にやるものだろう。


それをあえて、クリスマス前のこの時期にする理由は、いくつかある。


「1番の理由はクリスマスを超えると人が集まらないからだな。そのあたりで講義も終わるし、実家に帰るやつが出てくるだろ?」


「たしかにそうですね。わたしも27日で講義終わりですし」


「と、なると、まあ人が集まらないんだよな。ゼミのうち、半分でも集まれば良いほうだ」


「そんなにですか……」


「俺もお前も年末年始は実家に帰らないが、普通のやつは帰省するからな」


「なるほどです。……ちなみに、先輩は今年も帰らないんですよね?」


「今のところは、な。蒼衣も帰らないんだろ?」


「はい。先輩が帰らないなら、わたしもこっちにいるつもりです。できるなら、一緒に年越ししたいですし」


「ん、なら今年も一緒に年越するか」


「はい」


ふわり、と笑う蒼衣を眺めながら、年末年始に少しだけ思いを馳せつつ、コークハイを喉へと流す。


「……で、何の話だった?」


「ええと、忘年会をなぜこの時期にやるのか、ですね」


「ああ、そうそう。ひとつ目……は言ったな。ふたつ目は、今回だけかもしれないが、来週の週末がクリスマスイブだからだ」


俺の言葉に、蒼衣は納得したように、こくり、と頷く。


「なるほど。クリスマスイブなら、また人が集まらない、ということですね」


「そういうことだ。わざわざクリスマスイブにまでゼミの飲み会に参加したくないやつもいるだろうしな」


「それに、恋人がいる人はデートを優先するでしょうし」


「それもある。だから、結局参加人数が少なくなるってことだ」


「もしクリスマスイブだったら、わたしたちも不参加ですもんね」


「まあ、間違いなくな」


その理由は単純だ。年末年始と同じく、今年のクリスマスも蒼衣と一緒に過ごす──もとい、デートの予定だ。


昨年はまだ付き合っていない状態だったが、今年はそうではない。


ちゃんと付き合ってからのクリスマスデートだ。昨年とは、気合の入れどころが違うというものだ。


頑張らないといけないな、と思っていると、正面の蒼衣がにへら、と笑う。


「楽しみですね、クリスマスデート」


「……まあ、期待しておいてくれ」


「言われなくても、期待してますよ?」


目を細め、俺を見る蒼衣の表情は、全幅の信頼が寄せられているようで、なんだかむず痒くなる。


……これは、もっと頑張らないといけないな。

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