第13話 彼女からのプレゼント

ことん、と、対面からマグカップを置く音がする。


ちら、とそちらに視線を向けると、蒼衣が俺の前に小さな箱を差し出した。


深緑色のラッピングに、金色のリボン。それを留めているのは、同じ金色のシールだ。


これはつまり。


「先輩、これ、お誕生日プレゼントです」


「……ありがとな」


きっとくれるだろうとわかっていても、ちょっと照れくさいし、めちゃくちゃ嬉しいものだな、これ。


俺は、差し出された箱を受け取る。開けてみても? と、ちらり、と蒼衣に視線を向けると、もちろん、と言わんばかりに彼女は頷く。


テープを丁寧に剥がし、綺麗に包装紙を取る。


中から出てきたのは、黒い箱だ。表面には、どこかでみたことのあるようなロゴが印字されている。


はて、どこで見たのだろうか、と思いつつ、俺は箱を開ける。


その中には、銀色に輝く腕時計が入っていた。


奇抜過ぎないデザインではあるが、シンプル過ぎない、絶妙なバランスの外側。


そして、盤面は、鮮やかなブルー。その内側に、恐らくストップウォッチ機能に使われるのであろう盤面と、24時間表記用の盤面が入っており、車の速度メーターを彷彿とさせる。


数字は小さ過ぎず、わかりやすい。数字同士の間は、秒数でラインが刻まれており、そこがまたかっこいいところだ。


まあ、つまるところ。


「めちゃくちゃかっこいいな、これ!」


「えへへ、喜んでもらえたみたいでよかったです」


「時計、持ってなかったからマジで嬉しい。ありがとな、蒼衣」


「はい!」


えへー、と笑う蒼衣を見てから、もう一度時計を見る。


うむ、やっぱり完全な俺好みだ。


せっかくなので、手首にはめてみると、サイズ感もピッタリだ。


「あ、やっぱりピッタリでしたね。調整も合ってたみたいでよかったです」


「……お前、俺の手首のサイズ把握してるのか?」


「おおよそ、ですけどね」


「普通は把握してないからな?」


……蒼衣ってもしかして、俺のことで知らないことはないんじゃないだろうか。


「……俺も蒼衣の手首のサイズ、知っておいたほうがいいか……?」


「先輩はそれより、わたしの左手薬指のサイズを知っておいてください」


「それは知ってる」


からかうように言う蒼衣に、俺はノータイムで返した。


前にシルバーリングを買ったときのサイズを、ちゃんと覚えている。……いずれ使う、大事な情報だ。


それにしても。本当に良い時計だ。


きっと、それなりの値段がしたに違いないだろう。


……もしかして、いやもしかしなくとも。


蒼衣が急にバイトをする、と言いはじめたのは、このためだったんじゃないのか……?


「なあ、蒼衣──」


そう思い、蒼衣を呼んで。


「?」


小さく首を傾げる彼女を見て、俺は。


「……いや、なんでもない。ほんとに、ありがとな。大事にする」


「そうしてもらえると嬉しいです」


えへ、と笑う蒼衣に、ただそう言った。


こういうのを聞くのは、きっと野暮ってヤツなのだろう。


……さて、俺も蒼衣の誕生日には、これを超えるプレゼントを準備しないとな。


そう思いながら、また時計を眺めて。


……いや、マジでかっこいいな、これ。


俺は、明日からこの腕時計を必ずつけることを決めた。

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