第5話 この味はいったい
おかしな割れ方をした箸で、麺を掴む。不透明なスープからその姿を表すのは、太麺──というには細い気がする、普通と太麺の間くらいの麺だ。
何度か息を吹きかけ、軽く冷まして口に運ぶ。
「──!?」
驚きとともに、一気に麺をすする。
なんだ!? 何の味かはわからないが、とにかく美味い!
「これが横浜家系ラーメン……めちゃくちゃ美味いな……!」
味は濃い。濃いのだが、何の味かと問われても、やっぱりわからない。だが美味い──!
勢いに任せて、麺を一気にすすって、スープを飲む。労働のあとの体に濃いスープが染み渡るな……。
「美味しいですけど……これ、スープは何で出来てるんですかね……?」
首を傾げつつ、蒼衣が蓮華でスープをすくって飲む。首の角度がさらに深くなった。
「蒼衣もわからないのか。なら俺がわからなくても当然だな」
「それでいいんですか……」
「いや、事実だしな……」
普段料理をしない俺には、残念ながら繊細な──というか、何を使っているのか、といった素材の味を見分ける、もとい味わい分けることができない。まあ、当然だろう。味付けに何が使われているとか、知らないしな。
そのあたり、蒼衣は味付けにこだわるタイプなので、何をベースにしているのか、何を隠し味にしているのか、みたいなことがわかるようなのだが、今回は珍しくわからないらしい。
「むぅ……ここまでわからないとなんだか悔しいですね……」
眉間にしわを寄せながら、蒼衣がまたもスープを口に運び、首を傾げる。そんな彼女に苦笑しつつ、俺は麺を掴んでひと言。
「……麺も食わないとスープだけなくなるぞ」
「あ、それはそうですね」
そう言って麺をすすった蒼衣が、またも首を傾げている。どうしても味が気になって仕方ないらしい。ここに来てからの蒼衣、インコ並みに首傾げてるな……。
なんて思っていると、蒼衣が声をかけてくる。
「……ところで先輩」
「ん?」
「ずっと気になってたんですけど──」
そう言って、蒼衣は俺のラーメン──の隣にあるものを指差した。
「なんでお米があるんですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます