第6話 絶妙で、絶対に

「なんでお米があるんですか?」


そう言って、不思議そうにする蒼衣。そんな彼女が食べているラーメンの横にも、ちょこんとお茶碗が添えられている。


「なんでって言われてもな……。横浜家系といえば米も一緒に食べるのが定番だから、としか言いようがないな」


「わーお、炭水化物アンド炭水化物……しかも定番……」


驚きというよりも軽く引いているように見えるのは、まあ間違いなく太るからだろうな……。


「ちなみに、聞いた話だと海苔をスープに浸して米と食うと美味いらしい」


「へぇ、浸して、ですか。……このスープとお米って合うんですかね」


「それは食ってからのお楽しみだな。……正直なところ、俺も合うかどうかはわからないな……」


ラーメンとして食べるには、十分以上に美味いスープだが、かといって米と合うかは話が別だ。今のところ、五分五分といったところだろうか。


「せっかくですし、せーので食べます?」


「まあ、いいが……。それ、ゲテモノ食うときにやるやつな気がするんだが……?」


「……ある意味そうじゃないですか?」


俺にだけ聞こえるような小さな声でそう言った蒼衣の目には、疑いの色が見える。……まあ、その気持ちはわかる。俺も結構疑っているしな。


「……まあ、せーので食うか」


「はい。それじゃあ、いきますよ?」


「ん」


お互いに、スープに浸した海苔を米に巻く。たっぷりと染み込んだスープが、米へと伝っていくのが見えた。


蒼衣と目で合図をして、少し息を吸う。


「「せーの」」


掛け声と共に、俺は米を口に放り込み──


「──ッ!」


思わず、目を見開いた。


「な、なんだこれ……。ぜ、絶妙だ……絶妙に米に合う……!」


「な、なんですかこのバランス……! 絶対に合わない組み合わせなのに、なぜか合ってます……!」


蒼衣も俺と同じ感想を抱いたらしく、もはや恐ろしいものを見るような目でスープを見ている。


「せ、先輩……。わたし、このスープが怖くなってきました……」


「わかる……。なんでこんなに美味いんだ……」


このスープ、可能性の塊じゃないのか……?


俺は、米をスープで流し込むようにして、時には麺をすすり、この濃厚なスープを堪能する。向かいの蒼衣も、このスープに魅了されたらしい。なんだか悔しそうな表情で、箸を動かしている。


その合間、少し震えた小さな声が届く。


「ぜ、絶対太りますよこれ……っ」


……なんか、すまん。

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