第2話 雨空蒼衣の思いつき

「……暇だなぁ……」


そう呟きながら、わたしは先輩のベッドに寝転がる。先輩の匂いがする。思わず、すん、と鼻を鳴らしてしまう。


ころころと転がりながら、何をしようかと頭を悩ませる。


基本的にいつも先輩といるから、ひとりで何をしたらいいのか、わからなかったりする。先輩と会う前は何をしていたんだっけ?


……思い出せない。


「そもそも、大学生になってすぐに先輩と会ったし……」


ひとり暮らしを孤独で過ごした覚えがあんまりない。先輩と出会ってからは、死にそうな先輩をお世話している間に、好きになってここに居座るようになっていた。わたしのひとり暮らし生活──もとい、大学生活は、先輩との生活、と言い換えても過言ではないと思う。むしろ、そのほうが正しかったりするかも。


そんなわけで、わたしはひとりになると、こういう状況になりがちだったりする。


掃除や洗濯……はもう終わったし、夏期休暇だから、大学関係の課題もない。テレビを見る気分でもないし、ゲームをする気分でもない。というか、わたし、先輩以外とゲームってあんまりしないけど。


「うーん……」


天井を見つめながら、考える。


何か、ないかなあ……。


「……あ、そうだ」


数分ほど考えていると、ふと、今朝の先輩の顔が、頭に浮かぶ。


憂鬱ここに極まれり、という顔をした先輩だ。あれは相当憂鬱だったんだと思う。そのくらいに目が死んでいた。


知らない人と知らない場所でよくわからないことをする、という時点で憂鬱なのに、それが就活に直結する、なんて言われたら、憂鬱になるのも当然だとは思う。わたしだって、そんな状況になれば、あんな感じになるかもしれない。


──だから。そんな頑張っている先輩には。


「ご褒美がいりますね」


きっと、世の中的には当たり前で、ご褒美なんて必要ない、と思われるのかもしれないけれど。わたしくらいは、先輩に甘くてもいいはずだ。だって、彼女なのだから。


うんうん、と頷いてから、先輩へのご褒美を考える。


例えば、美味しいご飯。


これは、わたしの手料理であれば、多分なんでも喜んでくれる。わたしの料理は、完璧に先輩好みの味付けになっているからだ。我ながら頑張ったと思う。


……それはそうと、どうせなら先輩の好物のほうがいいよね。うーん……何にしよう……。


やっぱりお肉系かなあ。あ、でもお刺身でもいいかも。


軽く考えると、色々と案が出てくるけれど、今冷蔵庫にはないものばかりだ。なので、ひとまずご飯の話は置いておいて。


他にご褒美といえば……やっぱり、甘いもの。


これは、ケーキだろう。むしろ、ケーキ以外はありえないと思う。久しぶりにちょっとお高いケーキでも買いに行こう。……別に、わたしが食べたいから買いに行くわけじゃない。いや、その気持ちもすこしはあるのだけれど。


……話が脱線してしまった。とりあえず、ケーキの話も保留にしておこう。絶対に買いに行くけれど。


あと、ご褒美といえば……なんだろう?


うむむ、と唸る。食べ物ばかり、というのはなんというか、芸がない気がする。


他……他かぁ……。


「……あ」


そうだ。先輩にとってのご褒美。


その中でも、1番喜んでもらえるもの、それは多分──


わたしのご奉仕、だと思う。……と、いうことは。


「これは、先輩をどれだけ甘やかせるかにかかっている気がする……!」


そう思うと、なんだかやる気が出てくる。先輩を甘やかせるのはわたしだけなのだ。まあ、当然といえば当然なのだけれど。だってわたし、彼女ですし。


彼女として、わたしは先輩をとことん甘やかして、疲れた先輩を癒してあげないといけない。


「よしっ!」


とにかく、まずは買い出しだ。夕飯のメニューを何にするかを決めるのも、良い食材を探しながらにしよう。


わたしはベッドから立ち上がって、出かける用意をはじめた。


──先輩、とびっきりのご褒美、期待していてくださいね!

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