第11話 下から2番目相応の
「……そうだな、巻きではないな」
「……そうですね、巻きではないです」
蒼衣の小さな手に、ちょこん、と載っているのは玉子の握りを模したおもしろ消しゴムだ。
「やったな蒼衣。分解するパーツが増えたぞ」
「玉子と海苔とシャリじゃないですか! たしかに海苔が分離してますけど! お寿司なのにお魚ですらないんですよっ!」
蒼衣が玉子の消しゴムに向かって叫ぶ。やめてやれ、そいつに罪はない。
「ぐ、ぐぬぬ……。まだです。まだあと2回あります。あと2回で当てればいいんです」
「ダメな思考なんだよなあ」
俺がため息を吐くのには気づかず、蒼衣は次のくじを開く。
「じゃんっ! ……また6等ですか」
「お前、逆にすごいな……。普通5等くらいは出るぞ」
たしか、昨年は蒼衣も5等を引いていた気がする。景品が何だったのか思い出せないあたり、大したものではなかったのだろう。いや、この消しゴムも大概だが。
またもや蒼衣の手のひらに、ちょこん、と消しゴムが載っている。おや。
「よかったな、魚だぞ。しかもサーモン」
「……いらないです。サーモン大好きな先輩にあげます」
「いらねえ……」
どよん、と澱んだ目をする蒼衣が、俺の手にサーモンの消しゴムを握らせる。よく考えたらネタとシャリにしか分かれないので、分解パーツが減っている。ひどい罠である。
「さ、最後です……。これで当てれば……!」
そう言って、蒼衣が最後のくじをぐっと力を込めて開ける。
果たして、そこに書いていたのは──
「5等! 先輩5等ですよ!」
「それ下から2番目だからな」
はしゃぐ蒼衣にそう言いつつ、俺は頬を緩ませる。さて、5等は何が貰えるのだろう。昨年は……やっぱり思い出せないし、まあ消しゴムと同等レベルなんだろうなあ。
そう思っていると、蒼衣が景品を受け取って、こちらへと戻ってくる。その手には、棒状のものが握られていて。
「……5等は鉛筆らしいです」
……あー、そういえばそうだったな。やっぱり、消しゴムと同レベルである。
「……よかったな。これで課題が捗るな」
「今どき鉛筆で課題をする大学生なんていませんよ!? というか半分以上パソコン入力じゃないですか!」
「まあそうだが。あ、でもマークシートのときに使うだろ」
「マークシートのテストなんてほとんどありませんけど!?」
「それもたしかに」
教授的には楽そうでいいと思うのだが、そうでもないのだろうか。俺たち学生的にはマークシートのほうがありがたいのだが。主に選択式というところが良い。めちゃくちゃ良い。すべてマークシートにしてくれ。
なんて思っていると、蒼衣がおもむろに財布を取り出す。
「……おい」
「なんですか先輩」
「……お前、また引こうとしてるだろ」
「……先輩、あと1回、あと1回だけですから」
「不完全燃焼なのはわかったが、やめなさい」
「むぅ」
ぷく、とわざとらしく頬を膨らませる蒼衣。そんなあざといことしてもダメだからな。可愛いが。
「ほら、くじは忘れて、次行くぞ」
俺は、そう言って蒼衣の手を掴み、引きずるように歩きはじめる。
「……来年こそは当てますからね」
ぐぬぬ、と屋台を睨みつける蒼衣が、そう呟いていて、俺はひとつため息を吐きながら、来年はこの屋台を避けて移動しようと思うのだった。
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