第10話 当てるんですよ!
「いきますよ、先輩……!」
「おう」
真剣な顔つきでくじを選ぶ蒼衣を、俺は後ろから眺める。がりっと音を立ててりんご飴をかじる。酸っぱいな……。
「りんご飴のりんごが酸っぱいとハズレ感ないか?」
「先輩、今はそんなことを言っている場合ではないんですよ。あと、りんご飴のりんごは未成熟なものだったりするって聞いたことありますね」
「へえ、そうなのか」
つまりは、酸っぱくて当然、というわけだ。……甘いりんごを使ってほしいところである。
むむむ、と唸る蒼衣を見つつ、俺はりんご飴を無心でかじる。酸っぺえ。
なんとか食べ切り、何か口直しに食べようか、とビニール袋を漁ったところで、蒼衣がくるり、とこちらを向く。
「……決めました。これにします」
ぴっ、と俺に見せてくる手には5枚のくじが握られていた。
「お前、5回もやるのか……」
「ちなみに1回500円です」
「これに2500円も使ったのか!?」
「……先輩、当てればいいんですよ。当てれば」
「当たらないからダメなんだが!?」
好戦的な悟りを開いた蒼衣に、俺は思わずツッコミを入れる。
「先輩、当たる当たらないじゃないんです。当てるんですよ!」
蒼衣は胸の前で、ぐっと拳を握る。
「……」
こいつ、絶対ギャンブルに触れたらダメなタイプだ……。ソシャゲのガチャですら危ない気がするな……。
そんな俺のじとり、とした視線をもろともせず、蒼衣がくじを開く。
「では、ひとつ目です!」
「おもしろ消しゴムだろ」
「……おもしろ消しゴムですね」
昨年と同じく、このくじの最下位賞である。渡されたのは、鉄火巻きを模した消しゴムだ。
ちなみに、どのあたりがおもしろなのかというと、パーツごとに分離する、というところだ。この鉄火巻きだと、真ん中の部分が抜ける。以上である。ほかのものだともう少し分離するんだけどな。おそらく、ハズレの中のハズレだろう。
「なぜ鉄火巻きなんですか……。もっとほかにあると思うんですよ……」
「あえて鉄火巻きなのか……」
「気を取り直して、次です、はい!」
ばーん、と蒼衣がくじを開く。
書いてある文字は、6等。つまりは最下位賞である。
「またおもしろ消しゴムじゃないですか!」
「わかってたことなんだよなあ」
ぷくーっ、と頬を膨らませた蒼衣の手には、今度はかっぱ巻きが載っている。
「なんで巻きばっかりなんです……?」
「しかも鉄火巻きより質素になってるな……」
巻かれているのはきゅうりなので、まだマグロの鉄火巻きのほうがマシである。いや、かっぱ巻きも美味いんだけどな?
「……ま、まだここまでは前座ですよ」
「次は何巻だろうな?」
「納豆ですかね。……じゃないんですよ! 当てるんです! 次は巻きじゃありません!」
そう言って、蒼衣は3枚目のくじを開く。
そこに書かれていたのは──
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