第4話 看病するのに何がいる?

「──ってことらしい」


そこまで言って、一区切りつけた俺の耳に聞こえてきたのは、透き通るような彼女の声──ではなく。小さく可愛い寝息だった。


「……寝たか」


立ち上がり、ベッドを上から覗き込む。


穏やかな顔で眠る蒼衣には、もう苦しそうな様子はない。……まあ、冷やしているわけではないので、しばらくしたらうなされるかもしれないけれど。


俺は、一度だけ蒼衣の頭をなで、すぐ帰ってくる、とだけ呟いて、床に置いていたカバンを持つ。


いつもと違い、慣れない廊下を歩き、玄関で慣れた靴を引っ掛ける。


さて、ここからはスピード勝負だ。別に急ぐ必要もないが、なるべく一緒にいたい。あいつ、俺が目を離すと、もう大丈夫です、なんて言いながら活動しはじめるだろうからな……。


しっかりと鍵を閉めたことを確認し、俺は早足にマンションを出る。そして、アパートへと帰ることなく、そのまま大学付近のスーパーへと向かう。


普段なら、ひとりのこの道はつまらないな、と思ったりするのだが、今日はそんなことを思っている場合ではない。


「いったい何を買えばいいんだ……」


足は止めることなく、頭もフル回転。


まず、必要なのはスポーツドリンクだろうか。よく漫画の看病する描写に出てくるし。


……一応、調べておくか。


ポケットから取り出したスマホで『風邪 スポーツドリンク』と検索すると、大量のサイトがヒットする。とりあえず、1番上でいいか。


……ふむ。


何やら長々と書いてあるが、要するに発熱時は水分補給が大切で、スポーツドリンクは効果的らしい。


スクロールすると、他にも、食べやすいものや食べるべきものなんかも載っているようだ。


食べやすいものは、ゼリーやプリンといった、柔らかいものがいいらしい。そういえば、子どもの頃に熱を出したときには必ずゼリーを食べていた覚えがある。この辺は買っていくべきだな。


栄養面で言えば、ポトフとか、野菜が多く取れるものがいいらしい。……いや、作れそうにないな……。


……とりあえず、蒼衣にはおかゆで我慢してもらおう。おかゆ、作ったことないけど。まあ何とかなるだろ。レシピを見た感じ、難しくはなさそうだしな。


材料も多分、冷蔵庫にあると思う。蒼衣の部屋だし。なくても俺の部屋にあるだろう。あの蒼衣が、こんなに基本的な材料を切らしているとも考えにくい。というかほぼ米と調味料だしな……。


あとはまあ、適当に果物でも買っておけば大丈夫だろう。


ひとまず、食べ物関係はこんなものか。


他にいるものといえば……あれだな。あの、額に貼る、青いジェル状のものがついたシート。……名前がわからねえ。


どう頑張っても出てくる気がしないので、諦めてスマホで検索をかける。偉大なるインターネットの某先生曰く、冷却ジェルシート、というらしい。


あれがあるのとないのとでは、大きく変わってくる──というわけではないのだが。まあ、なんとなくあった方がいい気がする。額におけるサイズのタオルがあるのかわからないしな。


「とりあえず、そんなものか……」


頭の中でひと段落つけ、そう呟く。考えているうちに、スーパーのすぐ近くまで来ていたらしく、もう店が見えていた。


……よし、買うものは決めたし、早く買って帰るとしよう。


そう思い、俺は自動ドアをくぐり、カゴを手に取って、店内へと向かって行った──

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