第5話 買い出し帰りに気合を入れて

20分ほどして。


俺は、両手に大きな袋をふたつ抱えて自動ドアをくぐった。


「……重」


なぜこうなった。


いや、うん、原因はわかってはいるのだが。それでもどうしてこうなった。


そもそも、何を買えばいいのか整理したところで、看病経験のない俺は、何が必要で、何が必要ないのかの判断が出来ないのだ。


つい、目についた果物を買ったり、適当なジュースを買ったり、あとは蒼衣の好きそうなものをちょこちょことカゴに入れていった結果、どうなったのかというと、この状況。明らかな買いすぎである。


「この量、絶対いらないな……」


右手の袋をちらりと覗くと、大量のゼリーが目に入る。小さな3つ入りのものから、大きめの果物がごろごろと入っている、ちょっと高めのものまで、よりどりみどりである。さらにプリンもあるし、なんならプリン・ア・ラ・モードまである。うむ、明確に買いすぎ。


左手側を覗くと、各種果物だ。りんご、オレンジをはじめとして、本当に色々と買った。バナナもあるし、洋梨もある。こっちも明らかに買いすぎ。


そして、スポーツドリンクだけを買おうとしていたものの、追加で一応買ったのが野菜ジュースだ。野菜を取ると良い、と書いていたので、買った。俺が料理を出来ない分の補填だ。他にも、普通にコーラなんかも買っておいた。累計、4L。やっぱり買いすぎ。


元の想定していた量通りなのは、冷却ジェルシートだけだ。


そして、問題なのはそれだけではない。買いすぎたということは、それだけ物量も多いわけで。


重い。とてつもなく重い。


一見軽そうなものばかりだったりもするのだが、飲み物系がヤバいレベルで重い。まあ4kgあるからな……。


歯を食いしばりながら、アパートまでの道のりを歩く。今度のこの道は、随分と長い。指に食い込む持ち手が、一歩進むたびにぐいぐいと食い込んできて痛い。とにかく痛い。


「くっそ……重いぃ……ッ。痛いぃ……ッ」


そんな言葉を吐きながら、俺はなんとか蒼衣が待つマンション──ではなく、俺のボロアパートへと向かう。


「づッ……ふッ……」


か、階段がキツい──!


もはやうめきながら、なんとか自室へと辿り着いた俺は、玄関に持っていた袋を下ろす。ずっと重い荷物を持ち続けていた手には、その証のようにくっきりと筋が入り、赤を通り越して白くなっている。というか、今でもまだ痛い。


持ち上げているのにも力を使っていたらしく、腕もだるい感じがするが、まあ放っておくしかない。


……そんなことより、用を済ませて蒼衣のところへ戻らないとな。


手先に血液を戻すべく、ぷらぷらと手を振りながらリビングへと入り、肩にかけていた鞄をベッドの上へと投げる。その中から、大学に持っていく予定だったプリントやら教科書やらを放り出す。そこに、代わりとばかりに着替えを詰め込んでいく。


どうせ蒼衣のことだ。俺が帰る、なんて言っても、頬を膨らませて嫌がるに違いない。


簡単にイメージ出来たそれに、思わず頬を緩ませながら、必要なものを詰め終わった俺は、再度出発。玄関に放置していたビニール袋を両手に持ち、転げ落ちそうになりながら古びた階段をゆっくりと降りる。


本日2度目のマンションへの道は、別の意味で長く感じる。……ちょっと中身置いて来ればよかった……。


そんな後悔もしながら、俺は気合を入れ直す。ここまでは、あくまで準備。ここからが看病本番だ。


俺は、ぐっと拳に力を入れて、歩を進めた。


……両手に食い込んだ持ち手が痛かったのは、言うまでもない。

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