第6話 俺の想いと蒼衣の想い

「お腹空きました……」


「そりゃそうだろうな」


俺の腿を枕にしながら、覇気のない声で呟く蒼衣にそう返しながら、髪をゆっくりと撫でる。


「せめて1食くらいは普通に食わないと持たないぞー」


「うぅ……明日からはもう少し食べるようにします……。でも、せめて今日は頑張るので、わたしの空腹を紛らわせるために頭、そのまま撫で続けてください……」


「空腹って、頭撫でられて紛れるのか……?」


「気持ちの問題なので」


「生理現象なんだよなあ」


さらさらと髪に指を通したり、わしゃわしゃと手を動かしてみたり、気分で撫で方を変えながら、俺は思っていることを呟いていく。


「……蒼衣」


「はい」


「一応言っておくけど、俺はお前の見た目が丸くなったところで、嫌いになったりしないからな?」


「……わたしも、それはわかっているつもりですよ。でも、不安なものは不安なのです」


まあ、それはそうかもしれない。


俺だって、蒼衣が俺のことを好きだと、想っていてくれているということに疑いなんてない。


けれど、それでも、何かきっかけがあったら──なんて思ってしまうと、不安にもなる。……同時に、絶対にないだろう、と確信に近いものもあるのだけれど。


「……それに。わたし、先輩にだけは可愛いって思ってもらいたいんです。そのために、隠したり、嘘をついたり、なんてことはしたくないですけど、頑張りはしたいんです」


こちらからは、蒼衣の表情は見えない。それでも、少し頬を染めながら、強い視線でそう言っている表情がわかる。


たまに見る、そんな表情をした蒼衣は、確実に折れることはない。それでも──


「……さっきも言ったけど、頑張るのはいいけど、無理だけはしないでくれ。俺が1番好きなのは、蒼衣とゆっくりしてるこの時間なんだ」


俺にとって、ある種の癒しの時間。それが、こうして蒼衣といる時間だったりする。


別に、頭を撫でている時間だけに限った話ではない。ゲームで遊んでみたり、テレビを見たり、他愛もない会話をしたり──一緒に美味しいものを食べたり。


だから──


「だから、体調を崩すようなレベルは避けること。いいな?」


「……まさか、先輩にそんなことを言われるなんて」


「俺も、どの口が言ってるんだ、とは思う」


そう言って、どちらからともなく吹き出して。


「わかりました。無理はしないようにします」


「おう。とりあえず、明日は朝食を食べること、だ」


「それ、朝ごはん食べない先輩が言ったら1番ダメなやつです」


「これもどの口が、と思ってる」


くすくす笑う蒼衣を撫で続けながら、俺は改めて思う。


蒼衣に何かを言えるほど、俺も健康的な生活じゃないんだなあ……。


なんともまあ、締まらない先輩風である……。

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