第2話 昨夜のわたしと悪魔の機械
いつも通り、わたしは先輩に見送られ、自室へと帰って来ていた。
時間は、そろそろ日を跨ごうか、というくらい。明日は講義があるので、早めにお風呂に入って眠ってしまおう。
そう思い、さっとシャワーを浴びてしまう。髪を洗うのに時間がかかるのが面倒な気もするけれど、これもわたしにとって大切なことだ。先輩はわたしの髪が好きみたいなので、しっかりとケアしておかないと。このくらいの頑張りであの至福のひとときが手に入るのなら、安いものだ。
しばらく髪と格闘したあと、体を洗ってから、また頭からお湯をかぶる。
少し熱めのお湯が体を伝って落ちていくのを眺めながら、視界に映る浴槽をちらり、と見る。
たまには、大きな湯船に浸かってリラックスしたいとも思うけれど、ひとりでお湯を入れてしまうのはなんとなくもったいなくて出来ていない。今度、先輩が泊まりに来たときには浴槽にお湯を張っちゃおうか、なんて思いながら、お湯を止め、脱衣所への扉を開けた。
髪の水滴を適当に取り、体を拭いて、下着を身につけようとして──
目に、入ってしまった。
平べったい、板状の、無機質かつ乙女に現実を突きつける悪魔の機械──体重計。
「……」
正直なところ、最近のわたしは食べ過ぎ、というか、カロリーを取り過ぎだと思う。……主に、ホットケーキとホイップクリームのせいだけど。あれはあとから考えてみれば、恐ろしい量のカロリーで、それはもう倒れるかと思うほどだった。
あれから、わたしは体重を計らずに今日まできている。
確実に体重が増えていると、確信に近い予想があったからだ。
だからこそ、見て見ぬ振りをして、なんとか運動なんかをしながら今日まで頑張ってきたわけだけれど。
……そろそろ、元の体重くらいにはなっていると思う。約2週間も経っているし、もしかすると、元より軽くなっていたりして。
そんな淡い期待を抱きながら、わたしは体重計のボタンを押し、電源を入れる。ぴ、と小さな電子音が鳴って、デジタル画面が動きはじめた。
「……」
思わず無言で体重計を睨みつけながら、右から足をゆっくりと載せる。
忙しなく動くデジタル画面の数字を見つめながら、妙に早くなる鼓動を落ち着かせながら、左足を載せた。
載せて、しまった。
揺れ動いていた数字は、一気に値を──わたしの体重計を、明確に示す。
……。
…………。
「……あ、あわ、わわわわわわ」
……嘘でしょ。嘘。嘘だよね。
そう自分に言い聞かせ、もう一度数字を見返しても、さっきまでとまったく同じ。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁ──!?」
せ、盛大に、体重が増えてるー!?
や、やばいやばい。この数字はさすがにやばい──!
わたしは、半分涙目になりつつ、慌てふためきながら、ひとまず体重計から飛び退いて。
「……だ、ダイエット、しないと……」
背中に変な汗をかきながら、震えた声でそう呟くのだった。
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