エピローグ1 1番理解しているのは

ちゅんちゅん、と、どこからともなく音──いや、鳴き声だろうか──が聞こえる。


「んぅ……」


開かない目を擦り、もうひと眠りしようか、と腕の中のものを抱きしめた。


むにゅり。


顔に何か柔らかく、温かいものが触れた。


遅れて、嗅覚が起きたのか、甘い香りがする。


……は?


ゆっくりと、腕の力を緩め、少し離れてから開かない目を少しだけ開ける。


最初に見えたのは、ピンク色の布。そして、間から覗く肌色。それらが描くのは、柔らかな曲線だ。


「……なんで?」


目を擦り、もう一度確認するが──


「うーん……寝てるな……」


まったく気づかなかった……。


にしても、まさか朝に起きるとは……。自分のことは自分が1番わかっていると思っているのだが、案外そんなことはないのかもしれない。俺より俺のことを理解しているなんて、蒼衣、恐ろしい子……。


なんてふざけてみたものの、頭はぼーっとしたままで、目蓋は上手く開かないし、むしろ積極的に閉じようとしてくる始末。


……二度寝といくか。


半ば無意識にそう考えて、俺はもう一度、腕の中身を抱きしめる。甘い香りと柔らかな感触に包まれて、またゆっくりと夢の世界へと落ちていくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る