第18話 久しぶりのお買い物
通い慣れたスーパーの自動ドアをくぐり、いつも通り、蒼衣はカゴを手に取り、俺が押しはじめたカートに乗せる。
店内は少し騒がしく、親子連れも多い。まさに土曜日といった感じだ。
「なんだか、純粋に買い物をしに、先輩とこのスーパーに来るの、とっても久しぶりな気がしますね」
「だな。一緒に行っても大学の帰りだったし」
大学からの帰り道にあるこのスーパーは、俺と蒼衣が、というよりこの辺りの住民御用達の場所だ。俺と蒼衣にとっては、帰宅中のコンビニ感覚で立ち寄れる最高の立地だったりする。
そんな場所にあるので、俺と蒼衣が買い物をしよう、と思ってここを訪れるのは珍しかったりするのだ。
「さて、今日はホットケーキに合うものを探しに来たので……こっちです!」
そう言って、先行する蒼衣を、カートに体重を預けながら追っていく。蒼衣、相変わらず買い物好きだな。
いくつか通路を挟んだあと、蒼衣がぴたり、と止まり、曲がる。
「ここですね。お菓子作り系のコーナー」
「へえ、あんまりこの辺は見ないから知らなかったんだが、結構種類があるものなんだな」
「そうですね。わたしも最近はじめて知ったんですけどね」
「あー、そういえば蒼衣って、あんまりお菓子作らないよな」
「元々、実家の夕飯作りを手伝っていただけなので、お菓子を作る機会ってほとんどなかったんですよ。おかげでバレンタインは苦戦しました……」
蒼衣がどんな風に苦戦したのかは知らないが、相当だったらしい。遠い目をして陳列されたチョコレートを見るあたり、大変だったことだけは伺える。
……そんなに頑張ってくれたのだと思うと、俺としては嬉しいけれど。
「……さて、それはともかく、です。どれにします?」
そう言って、蒼衣はしゃがみこむ。その横に、同じようにしゃがむと、目の前には色とりどりで、形もそれぞれ異なるボトルが並んでいた。
「そうだな……。まずはやっぱり、メープルシロップだな。これに限る」
俺が指さしたのは、それぞれ独特な木を模した形のしたボトルだ。
「先輩イチオシのメープルシロップですか。ちなみに、どれが美味しいとかあるんですか?」
蒼衣が2種類のボトルを手にとって、見比べながら首を傾げる。
「……それは俺も知らない」
「あれだけ言っておいてですか……」
「いや、俺も家にあったやつで食ってただけだし、毎回種類違ったし……」
恐らく、そのとき1番安いものを購入していたのだろう。基本的には美味しいのだが、時々味がひどく薄いものがあったりと、悲しい気持ちになることも多々あった。
「まあ、平均くらいのこれでいいんじゃないか?」
そう言って、俺は蒼衣の持っていた片方を取り上げ、カゴへと入れる。見た感じ、値段は大体平均くらいだ。ハズレ、ということはないだろう。
「結構雑に決めましたね……」
「まあ、味わからないからな……」
ひとまず、これで俺の目的は達成だ。ホットケーキに必須のメープルシロップを手に入れれば、あとはなんとでもなる。
そう思い、満足していると、蒼衣が俺の袖をくい、と引く。
「先輩。満足そうにしてますけど、ここからが本番ですからね」
「本番……?」
いったい、どういうことだろう……?
思わず首を傾げると、蒼衣がにやり、と笑う。
「ここからは、普段買わない甘いソースとか、そういうのに手を出してみましょう!」
「……あ、俺もう未来が見えた」
多分これ、買いすぎて余るパターンだな。いつものだ。
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