第19話 チューブにボトルに瓶

「まずはこれです!」


そう言って、蒼衣は楽しげにチューブタイプの容器を見せてくる。白い蓋に、赤いチューブ部分、その中心には牛の顔がでかでかと描かれている。


「練乳か」


「はい。練乳っていちごにかけるイメージありません?」


「あるな。むしろいちご以外にかけるものが思いつかない」


というか、そもそも練乳ってそんなに食べる機会ないしな。


「うーん、かき氷、とかですかね。甘くてミルキーな感じで美味しいですよ」


「へえ。まあ、ミルク系のアイスって美味いし、合わないわけないか」


「そういうことです。さて、そんな練乳をホットケーキにかけると……絶対美味しいと思いません?」


「……たしかに」


練乳は、しっかり甘いが、ハチミツとは違った甘みだ。これはこれで試してみたい気持ちはよくわかる。


「では、これは決定で。次は──」


ぽい、と俺がもたれかかっているカートに練乳を放り込み、蒼衣は次なるボトルを棚から手に取る。


「これです! チョコソース!」


「無難に美味そうだな」


まさにチョコレート、という色をした見た目のボトルを見ながら、俺はそう呟く。チョコレートといえば、洋菓子の定番の味だろう。それがホットケーキに合わないはずがないと思う。


「では、これも決定で」


「雑……。このペースで入れていったらやばい量になりそうだな……」


まあ、蒼衣もそれはわかっているのか、ある程度は厳選しているみたいだし、なるべく小さい容器のものを選んでいる。……いや、それでも使いきれそうにないサイズ感だが。


「次はこれですね。チョコソースよりも無難なジャムです」


「たしかに、メープルシロップの次に無難だな」


「メープルシロップが無難かどうかには異議を申し立てたいところですが……。まあいいです。味、どれにします?」


そう言って、蒼衣が指差した棚には、左からブルーベリー、ストロベリー、マーマレード、りんごと並んでいる。


……りんご?


「りんごジャムってはじめて見たな……」


思わず手に取ったビンの中には薄い黄色のジャムが詰め込まれている。他のジャムに比べると、色はあまりはっきりしていない印象だ。


「りんごジャムは普通に売ってますよ? 昔からありましたし」


「マジか。味が想像つかねえ」


りんご系のお菓子って、あんまり食べないんだよな……。いったい、どんな味なのだろうか。


顎に手を当て、何か近そうな味を想像しようとするも、上手くイメージ出来ない。いや、食べたことがないのだから当然なのだけれども。


悩む俺に、蒼衣がええと、と頬に指を当てて口を開く。


「ちょっと違いますけど、アップルパイの中身、みたいな感じですよ。あれからシナモンの風味を抜いた感じです」


「あー……なんとなくわかった気がする」


言われてみれば、アップルパイが近い味、なのだろう。……まったく思いつかなかったけれど。


勝手に納得してうんうん頷いているうちに、蒼衣が並んでいる瓶のうち、1番小さいものを手に取った。中身は先ほど見た薄い黄色だ。


「せっかくなので、今回はりんごジャムにしましょうか」


「おう。イメージ出来たとはいえ気になる」


「まあ、予想通りの味がするとだけは言っておきます」


「それでも食ってみたいものは食ってみたいんだよなあ。……さてと、もうそろそろ──」


蒼衣がカゴに瓶を入れるのを見届けて、俺が続けようとすると──


「先輩、次はこれです! キウイソース!」


「蒼衣さん蒼衣さん、いくらなんでも4つ目はいらないと思いますけど」


「……次はこれです、キウイソース」


「テンション落としてやり直してもダメだからな」


「……」


「無言でカゴに入れるな」

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