第4話 世間的とわたし的

「──みたいな感じですかね」


「ほとんど使えねえ……」


どうですか、とばかりに胸を張る蒼衣に反して、俺はゴン、とテーブルに頭を落とした。


「えー、なんでですか。結構色々言いましたよ?」


「いや、言ったけどなあ……。最後のやつとか、完全に好みじゃねえか……」


もういくつ目か数えるのをやめた頃に、蒼衣が言ったのは、「わたしの好みの顔です」だった。ちなみにだが、俺は決してイケメンではない。平均くらい……は、あると思いたいところだ。……あるよな?


そんな不安はともかく、就活で使えないことは確実だ。長所は顔です、なんて言うやつは、その時点でヤバい。


「たしかに好みですけど、わたしから見た先輩のいいところですからね。世間的ないいところと、わたしから見たいいところは別なんですよ」


「それならやっぱり使えねえじゃねえか……」


思い出してみても、それ以外で使えそうなものと言えば、ふたつ目の自分の意見を言う、というやつくらいだろう。あとは正直、蒼衣限定なものが多すぎた。……まあ、言われて恥ずかしいが、嬉しいものもあったので、多少気が紛れたような気はするが。


「どうしたものか……」


テーブルにうなだれつつ、そう呟くと、またも潰れた頬を蒼衣が突く。


「先輩は深く考えすぎな気もしますけどねえ」


「……お前、来年絶対苦しむぞ」


「そうですかねぇ」


この苦しみは、やってみないとわからないのだろう。俺だって、もう少し楽に終わると思っていた。……というか、1時間くらいで終わるかなー、なんて思っていたのだ。……現実は、徹夜だが。


俺は、顎に手を当て、まだ考えていてくれている蒼衣の隣を通り過ぎ、台所へと向かう。


……やっぱりこんなこと、正気ではやってられないぞ。


冷蔵庫を開け、1本缶を取り出す。……この時間からというのは、なんともいえない背徳感がある。


「あ、先輩。いいの思いつき──って、先輩!? この時間からですか!?」


「こういうとき、ちょっとくらいなら飲んだ方がいいって聞いたことある」


リビングへと戻り、俺は缶のプルタブを開け、それをひと口飲んだ。レモンの香りと、独特な苦味と香りが混ざり合った飲み物。


──そう、酒である。


「……朝から飲む酒って、美味いなあ」


「朝からお酒は世間的にもわたし的にもアウトです! あと飲んだ方がいいっていうのは絶対間違ってますからね!?」


そんな蒼衣の正論な叫び声を肴に、俺はもうひと口、缶を煽った。

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