第3話 秘めていたお礼を

ぴん、と人差し指を立てて、蒼衣が話しはじめる。


「先輩のいいところひとつ目は、優しいところです」


「……そうかぁ?」


あまりに自覚がなく、思わずそう漏らす。


「そうなんです。例えば……わたし、先輩と付き合う前から、時々わがまま言ってましたよね?」


「まあ、そうだな」


「そんなとき、なんだかんだで先輩は、ほとんどお願いを聞いてくれてましたし、最近も結構わがまま言ってますけど、それも聞いてくれてますよね。そんなところが優しくて、あと心が広いと思います」


「いやいや、それは……」


「それは?」


首を傾げる蒼衣に、なんでもないと首を振る。


……それは、蒼衣だから、なんだよなあ。


付き合う前は、元々、付き合うつもりも、というか想いを伝えるつもりもなかったけれど、好きだったのだ。好きな女の子に甘くなるのは男にはよくあることだと思う。


今となっては、どんなわがままも可愛く思えてしまうので、多分、惚れた弱みとかそういうものなのだろう。


……恥ずかしいし、照れるから言わないけれども。


「なんて言おうとしたのかは気になるところですけど、今回はスルーしてあげます。ともかく、先輩は優しいです」


「……この調子で聞くと、就活には使えない長所ばかり出てきそうなんだが……。他は?」


「そうですね、じゃあ次にいきましょうか。なんで使えないと思っているのか謎ですけど」


そう言って、蒼衣は2本目の指を立てる。


「先輩のいいところ、ふたつ目は自分の意見をしっかり言うところです」


「急に真面目な流れになったな。理由は?」


「先輩、付き合う前にわたしがどれだけお願いしてもダメなものはダメって言ってましたからね。そういう自分の中の芯みたいなものがあるのはいいところのひとつだと思います。……それがあまりにも頑なで大変でしたけど」


ふぅ、と疲れた感じで息を吐く蒼衣。


「……蒼衣、結構な頻度でそれを乗り越えて強引に我を通してなかったか?」


俺の記憶だと、ほとんど蒼衣に押し切られていた気がするのだが……。勝手に俺のベッドで寝たりもしてたし、泊まったりもしてたな。


「だって、それを越えないと先輩、わたしのこと好きで耐えられなくならないと思ったので……」


頬を染めながら、ぷくり、と膨らませている蒼衣から、そっと目を逸らす。


……まあ、今があるのは蒼衣の強引さのおかげだ。


「……ありがとな」


思わずそう小さく呟くと、蒼衣は一瞬驚いたあと、ふわりと笑って。


「……はい」


と、小さく呟いた。


「さて、では次のいいところにいきましょうか。3つ目は──」


そう言って、蒼衣は3本目の指を立てて──

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