第5話 やる気がないのは雨のせい

外からする、鳴り止まない雨音を聞きながら、足を床に放り出し、ベッドへと倒れ込む。


「……やる気出ねえ……。何もしたくない……」


「先輩はいつもじゃないですか……」


そう言いながら、蒼衣が同じように、俺の隣へと寝転がる。


ふたり並んで天井を見上げながら、揃ってため息を吐いた。


「雨の日って、なんでこんなに何もしたくなくなるんでしょうね」


「なんでだろうな。気圧とか、湿度とか、そういう系のせいだとは思うんだが」


どちらかといえば、頭痛の原因な気もするが、他の要因も思いつかないし、多分そうなのだと思う。


「そういえば、蒼衣は低気圧とかで頭痛はしないタイプなんだな」


「急ですね。気圧が変わって頭痛、みたいなのはなったことないはずです。先輩は……しなさそうですね。頭痛いって言ってるの、見たことないですし」


「おう、俺もないな。……というか、そもそも頭痛になったことがあんまりない気がする」


「そうなんですか?」


思い返してみても、あまり記憶にない。ゲームで2日連続で徹夜したときくらいだろうか。


「頭痛に限らず、体調を崩したことがあんまりないんだよな」


「……わたしがここにはじめて来たとき、倒れてましたけど」


「……大学生になるまではそんなに体調崩さなかったんだ。本当だぞ?」


疑わしげな蒼衣に、念押しをしておく。


「それが本当だったなら、やっぱり先輩が大学生になってからの生活が乱れていた、ということですね」


「……まあ、否定はしない」


飯もろくに食べず、食べるときはコンビニ弁当かインスタント食品。そのうえ、昼夜逆転なのだから、乱れていたのはその通りだ。……大学生って、こんなものだとは思うんだけどなあ。


「先輩のそういう話を聞くたびに、わたしはしっかりしないといけないな、と思います。先輩の健康はわたしにかかっているんですから!」


そう言って、蒼衣が胸の前でぐっ、と手を握る。


「……否定は出来ないんだよな……」


ついに、蒼衣に健康まで握られてしまったのか……。いや、よく考えれば随分と前からそうなのだが。


「でも、ですね」


そう呟いた蒼衣が、手から力を抜いて、だらりとベッドへと落とす。


「今日はやる気が出ないです……。晩ごはんも作らないといけないんですけどね……」


はぁ、と小さくため息を吐いた蒼衣。彼女が料理を面倒だというのは、結構珍しい。


けれど、その気持ちはよくわかる。雨の日は、本当にやる気が出ないのだ。


「外で食う……のは、雨が降ってて行きたくないし、インスタントにするか」


「……それはさすがに……」


作りたくはないが、インスタントも認められない蒼衣は、複雑そうな顔をしている。


うーん、家から出ずに、作らず、食べられるもの……。


そう考えて、ふと、頭に浮かんだ食べ物があった。


「蒼衣。デリバリーだ」


「……なるほど。デリバリー、いいですね! 何食べます? ピザとかですか?」


反動をつけて、ぴょこん、とベッドから起き上がった蒼衣が俺を覗き込む。


俺は、ぴん、と人差し指を立てて、にやりと笑う。


「いや、今日は違うやつ──天丼にしよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る