第29章 5月3日
第1話 ゴールデンウィークはため息と共に
ちらちらと視界に映り込む前髪を横に流し、目の前の文字列を読む。まったく頭に入ってこない文章と、ほんのり汗ばむような気温のせいか、少しずつ持っている紙が弛んでいくことに、無性に苛立ちを覚えた。
「……ダメだ……全然わからねえ……」
後ろに倒れ込むと、頭をベッドが受け止める。……この体勢は首が痛いな。
「先輩、はじめてまだ30分経ってませんよ」
正面で、蒼衣もしかめっ面をしながらプリントを眺めている。
机の上に置いたスマホを手に取り、SNSアプリを開く。目に入る投稿や、ニュースはすべて、今日という休みを満喫しているものばかり。
「……世の中が休みなのに課題があると思うと腹が立つな」
「きっと、休みに羽目を外す人がいないようにこうして課題が出てるんですよ。……ゴールデンウィークくらい、わたしも休ませてほしいと思ってますけど」
そう、ゴールデンウィーク。皆様ご存知、5月の上旬にある祝日ラッシュだ。社会人や学生にとって、最高の休みであるはずのゴールデンウィークは、俺たち大学生にとっては、まったくもってそうではない。
やれ講義回数の関係で通常講義です、だの、やれ休みなので課題を出します、だの、休みはないのに課題はある、という状況。さらには、休みなんだから時間あるだろ、と言わんばかりの量と難しさである。ふざけんな。
おかげさまで、俺と蒼衣は少ない休みにも関わらず、揃って課題に追われている真っ最中だ。
「はぁ……。せっかくゴールデンウィークですし、先輩と色々したかったんですけどねえ……」
大きくため息を吐きながら、机に突っ伏す蒼衣。もちっ、と頬が潰れるのを見て、思わず俺はそれを突く。癖になる柔らかさだな。
「何しようとしてたんだ?」
「お買い物に行ったり、ちょっと美味しいもの食べに行ったり、レジャー施設に行ったりもしたかったですね。……というか突くのやめてくださいよー」
そう言いながら、あまり嫌がっていなさそうなので、俺は突く指を止めないまま、口を開く。
「なるほど……。さすがにこの課題の量だと、レジャー施設は厳しいかもな。けどまあ、ちょっと美味いものくらいは行けるだろ」
「行けるといいんですけど……」
「さすがに飯食えないレベルの課題の量じゃないだろ……。とりあえず、昼飯までにキリのいいところまで頑張って、何か食いに行くか」
「ですねぇ……」
そう言って、蒼衣は体を起こし、俺はスマホをベッドへと投げ、机に向かう。
そして、愛用のシャーペンを握り。
「「はぁ…………」」
ふたり揃って大きくひとつ、ため息を吐くのだった。
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