第5話 言い訳を聞きましょうか
「……さて、先輩。言い訳を聞きましょうか」
「せめて弁解とかにしてくれ。言い訳って言い方はちょっと……」
自室に帰宅した俺は、早々にリビングで正座をさせられていた。目の前には、ビニール袋が4つと、めちゃくちゃ怖い目をしている可愛い彼女がひとり。蒼衣が動くたびに、ひらひらと揺れるスカートに意識を削がれながら、なんとか視線を蒼衣の目へと戻す。
「意味は一緒ですよ。……で、この量はどういうことですか」
そう言って、蒼衣がひとつずつ中身を取り出す。
「まず、ハンバーガー。これがひとつ、ふたつ……まではわかります。わからないのはここからです」
そう言って、さらに2つのハンバーガー──正確にはチーズバーガーだが──を取り出す。
「ふたりなのに、ハンバーガーは4つもいらないと思うんですよ」
「いや、半分はチーズバーガーだからな」
「そういうことは聞いていません」
蒼衣は、ぴしゃり、と俺のどうでもいいツッコミを斬り伏せ、じとり、と視線を向ける。
「……まあ、ひとりふたつくらいなら食えるかなー、と」
「そうですね。食べられると思います。──これで終わりなら、ですけど」
そう言って、彼女は袋からさらに取り出していく。
直方体の箱がふたつ置かれる。そこには、ハンバーガーショップのロゴに加えて、ポップな字体で商品名が書かれていた。
「チキンナゲットが2箱。しかもこれ、15個入りですよね?」
「おう。15個入りが2箱の30個」
「30個って相当ですよ!? 普通のサイズだと5個入りですからね!? なんでファミリーパックを2個も買うんですか!」
「ナゲットならいけるかなー、と」
「そうですね! まだこれだけなら!」
そう叫んで、蒼衣が袋の中へと再び手を伸ばす。
カン、カン、カン、とやけくそ気味に音を立てて机に置かれるそれは、紙で出来た入れ物。並んだ数は9個。
「これですよ、これ! なんでポテトのセットを3つも買うんですか!」
机が汚れないように、律儀に紙を敷いてからポテトを置いている。こういう気遣いが出来るのが、蒼衣の長所である。なんて、考えながら、俺は考えていなかった理由を適当に言う。……いや、本心ではあるんだが。
「まあ、9個くらいなら食えそうだな、と──」
「食べれませんよ! この量! 見てください!」
被せるように言った蒼衣は、ばっ、と手を広げる。
そこには、ハンバーガーとチーズバーガー、チキンナゲットの箱がそれぞれふたつずつ。そして、ポテトが9個。あとは、ジュースが2個置かれている。
「バーガー系のセットにポテトとナゲット足したものが4つですよ!? なんで食べれると思うんですか!?」
「そう聞くと食える気がするなあ」
「……そうですか。わかりました。じゃあ先輩──」
はあ、とひとつため息を吐いた蒼衣は、さっきまでの半分怒ったような表情からは一転、とびっきりの笑顔で、こう言った。
「ぜーったい、食べ切ってくださいね?」
瞳の奥は、笑っていなかったけれど。……怖いな。
「……蒼衣も食べるんだぞ?」
一応、そういうつもりで買ったのだが……。食べない、と言われるとさすがにまずい状況だ。
「わたしはお腹がいっぱいになるまでしか食べません」
「ええ……」
……これ、やばいかもしれない。
思いつきで動くことの危険を知った気がしながら、俺はまず、目の前のハンバーガーに手を伸ばした。
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