第4話 最新技術は一枚上手

最近、ようやく歩き慣れた感覚を思い出しはじめた道を進む。隣には、いつもと変わらず、蒼衣が歩いている。彼女の歩幅に合わせることもいつの間にか癖になり、気づけばひとりのときですら、少しゆっくり歩くようになっていた。


それくらいまで、蒼衣といる時間は長く、日常になっている。


なっている、のだが。


「……むぅ」


1日に2度もじとり、と見つめられながら歩くのは、多分はじめてだと思う。しかも、結構な短時間の間に、だ。


「……で、結局先輩は何を企んでいるんですか?」


「いや、だから何も企んでいないって」


……企んでいるけれど。何食わぬ顔をしながら、信号待ちの度にスマホの画面を叩き続けて、その企みを実行中だけれど。


普段の通り慣れた道とは逆方向の駅方面へと道を曲がり、またも信号に引っかかる。今日はやけに止められるが、今回はそれも運がいいというものだ。


「どうせ先輩のことですし、さっきのポテトセットをひとりで食べようとか、そんな感じな気はしますけど。……待ってください。わたしもひとつ、先輩もひとつで2セット頼もうとしてませんよね?」


途中で気づいたのか、ハッ、と目を見開き、今度は俺の反応を見逃すまいとこちらを見つめてくる。大きな瞳に視線を奪われつつ、俺は


「してないしてない」


「……本当ですか?」


「本当だ」


「……嘘だったら、わたしのお願いをなんでもひとつ聞いてもらいますからね」


「……大丈夫。嘘は言ってないからな」


「なんですか今の間!? 怪しい……」


またも、じと、とした目に戻っている蒼衣に見られながら、俺は地道に進めていたスマホでの作業を終える。


蒼衣は、最悪の場合、その場で止めようと思っているのだろうが、そこは俺の方が一枚上手というやつだ。


視界の端に、でかでかとしたハンバーガーショップのロゴマークが、高く伸びた棒の先でくるくると回っているのが見える。距離が近づいてきた証拠だ。


「毎回思うんだが、あれ、どうやって整備してるんだろうな」


ロゴマークを指差してそう言うと、蒼衣もそちらへと視線を向ける。よく、電気が切れているのを見るので、ふと気になったのだ。


「はしご車みたいなのでやるんじゃないですか? さすがにあの高さだと、普通のはしごだと届きませんし」


頬に指を当てた蒼衣は、そう言いながらも興味はなさそうだ。まあ、答えが出るものでもないし、当然といえば当然だ。


だが、そんな中身のない雑談のおかげで、ハンバーガーショップは目前。


蒼衣は、こちらを見て、にやりと笑う。


「先輩の企みはわたしが阻止しますよ? なので大人しく諦めてくださいね?」


そんなことを、何も知らずに言う蒼衣。


それに、俺はにやり、と笑い返しておく。


自動ドアを潜り、店内へと入った俺は、レジ──ではなく、受け取り口へと向かう。


「先輩? 注文こっちですよ?」


不思議そうに首をかしげ、袖を引く蒼衣。


「いや、こっちで合ってる」


「……?」


考えてもわからなかったのだろう。怪訝な表情のまま、蒼衣は俺の後ろをついてくる。


俺は、スマホの画面に表示されている番号が、受け取り口の画面に映っているのを確認して、そこへと向かう。


「蒼衣。オンライン注文って知ってるか?」


「いえ……って、まさか」


「そういうことだ」


俺が何をしたのかに気づいた蒼衣に、にやりと笑う。


最近このハンバーガーショップに導入された、事前にオンラインで注文し、受け取るサービス。それが、今回の俺が一枚上手な理由だ。


「とりあえず、これ持ってくれ」


受け取り口で渡された2つのビニール袋を渡す。……思っていたより量は多そうだ。もしかすると、ちょっとやばい、か?


「な、なんですかこの量!? っていうか重いです!」


内心、冷や汗をかいていると、袋の中を覗いた蒼衣が悲鳴を上げる。だが、それで終わりではない。


「あと2袋あるからな」


残りを受け取り、俺はそれを蒼衣に見せ、出口へと向かう。


予約は時間もかからないし、金もオンライン決済で楽だなあ、なんて思っていると。


「わ、わたしが思っていたより多いんですけど!?」


と、店を出ると同時に、蒼衣の叫び声が響いた。

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