エピローグEx ピロートーク的な何か

二度寝から目を覚ました俺は、目蓋を擦る。ゆっくりと目を開けば、もう空は暗くなりはじめていて、夜に眠れなくなることが簡単に予想がついてしまう。……これは困った。


「んぅ……んん……」


俺が少し動いたことで起こしてしまったのか、蒼衣もゆっくりと目蓋を開く。


「ぁ……おはようございます」


「おう。もう夕方だけどな」


いつもとは逆のやり取りに、思わずふたり揃って吹き出しながら、体を起こす。


「……とりあえず、シャワー浴びるか」


「ですね」


そう言って、起き上がった蒼衣は、くっ、と伸びをして──


「ひゃあっ!?」


はらり、と落ちた掛け布団を、高速で掛け直す。それはもう、恐ろしいまでの速度で。


だが、その落ちた一瞬を見逃すのは、男には不可能だろう。おそらく、人生で1番動体視力が良かった。


「……見ました?」


掴んだ掛け布団を口元まで持っていきながら、耳まで赤くしてそう聞く蒼衣に、俺は視線を逸らす。


「……それは、まあ」


「ぅぅぅぅー……っ」


「いや、そんなに恥ずかしがらなくても……。昨日は散々見られたわけだし」


「……それとこれとは違います。昨日より明るいですし」


「明るさの問題なのか……?」


「それだけじゃなくて、シチュエーションというか、雰囲気の問題もあります」


「わからねえ……」


「……先輩は今、裸でわたしの前に立てますか?」


じとり、と視線を向けながらそう問いかける蒼衣。


しかし、裸で蒼衣の前に、か……。さすがに、恥ずかしいものがあるな……。いや、今も上半身は丸見えなのだが。


「……それはちょっと」


正直にそう答えると、蒼衣はそれ見たことか、とばかりに頬を膨らませる。


「つまりはそういうことですよ。……と、というかですね、先輩……」


「ん?」


またも顔を赤くする蒼衣に、俺は首を傾げる。


「先輩もその、上、隠してくださいよ……」


「……昨日散々見ただろ?」


それに、男の上半身なんて、海やらプールやらでその辺に溢れている。だが、蒼衣は口元の掛け布団にさらに埋まりながら、微妙に目を逸らして言う。


「そういうことじゃなくて、です。散々見たからって、慣れるものでもないですし。……先輩はわたしを見て、もう、その、そういう気持ちにならないんですか……?」


半ば確信、残りを不安と恥じらい、といった具合の感じを瞳に乗せながら、ちらり、と見る彼女に、思わずどきり、とする。そういう理性を壊しにかかる質問を安易にするのはやめてほしい。


「……いや、そんなことはない……まったく、ない……」


実際、さっき見えた胸で実は限界だったりするわけでもあって。


「……」


「……」


お互いに、恥ずかしさで無言が続く。顔が熱いな……。


「あ、蒼衣、先にシャワー浴びてきていいぞ」


「え、あ、はい。じゃあ……」


そう言って、蒼衣が掛け布団を引っ張る。おそらく、昨晩床に投げ捨てた服を回収しているのだろう。その間、俺は、もちろん後ろを向いているので、蒼衣がどんな動きをしているのかはわからない。


衣擦れの音が聞こえるのを、聴覚に全神経を集中しつつ、理性は保ったままで……。いや、厳しいなこれ……。


欲望に抗っていると、急に下半身に乗っていた重みがなくなる。蒼衣が掛け布団を引っ張りすぎて、布団がベッドから落ちてしまったらしい。


「ひゃ……!?」


「うお!?」


揃って悲鳴を上げ、俺は反射的に手で隠そうとする。……が、先ほどと同じ、どうやら蒼衣には見えていたようで。


「……せ、先輩の、えっち……!」


そう恥ずかしげな声が聞こえて、直後に頭から衝撃と共に、視界が真っ暗になる。


「あふっ!」


どうやら、蒼衣が掛け布団を投げてきたらしい。まあまあの重みで、地味に潰される……。


布団の向こうで、とてとてといつもよりペースの早い足音が聞こえ、俺は掛け布団から頭を出す。


……最後に蒼衣が言った言葉、こう、くるものがあったな……。


そう思いながら、俺は俺は小さく呟いた。


「とりあえず、夜まで耐えるか……」


その夜、どうなったのかは、想像にお任せしておく。

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