エピローグ2 たまにはズル休みを

「先輩、起きてください、せんぱーい!」


ゆさゆさと、揺さぶられる感覚に、俺の意識が浮上してくる。


ずいぶんと、今日は蒼衣の声が近い。それに、何か焦っているようにも思える。


「はやくー! 先輩ー!」


「……ん……どうした、そんなに慌てて……」


ゆっくりと、目を開く。


すると、目の前には、大きく、ぱっちりとした瞳が映る。遅れて、甘い香り。そして、一気に体中に柔らかい感触が走り抜ける。


「──ッ!?」


そうだ、そうだった。


昨日の夜は、いわゆるお楽しみで、俺は──多分蒼衣も──服を着ていない。だから、ダイレクトに肌の柔らかさが伝わってくる。


朝から、刺激が強すぎる!


しかも、どうやら俺は眠っている間に蒼衣を抱き締めていたらしく、完璧な密着状態。


……やばい、耐えられる気がしない。朝だが、そんなことが関係なく、やばい。


そんな俺の葛藤を、多分理解していない蒼衣が、焦ったように俺の腕の中から声を上げる。


「先輩! もう3時前です! 4限がはじまっちゃいます!」


「マジか」


そう言って、反射的に視線を向けたデジタル時計は、たしかに15時前を示している。


「な、なんとか4限はギリギリ遅刻くらいで行けると思うので、今から──」


蒼衣は、俺の腕の中から出ようとする。


……今から講義は、面倒だ。


それに、俺としてはまだ目が覚めてすぐ。もう少し朝の余韻を楽しみたいわけで。


「蒼衣」


腕の中の彼女を、ぐい、と抱き締める。


全身の柔らかい感触、特にふたつの柔らかいものに理性をぶん殴られながら、俺は口を開く。


「どうせ遅刻なら、今日は休まないか?」


「い、いや、さすがに間に合うなら……」


「準備も今からなのにか?」


「ぅ……」


俺はともかく、蒼衣の支度には、少し時間がかかるはずだ。渋い顔になった蒼衣に、俺は追撃をする。


「シャワーも浴びないといけないのに?」


「ぅぅぅ……」


「今日は休んでもいいと思うんだが」


「ぅぅぅぅぅ……」


唸る蒼衣に、最後のひと押し、とばかりにそう言うと、さらに唸りながら、蒼衣は俺の腕の中から出ようとするのをやめて。


「今日だけ、特別にお休みにします……。仕方ないですし……」


そう言って、また、ぴたりと俺にくっついた。


……あの、それは結構刺激が強いからやめていただきたいんですけど……。


「だから先輩、せっかくのズル休みなので、全力でゆっくりしましょうね?」


こちらを見上げる蒼衣に、どきり、としながら、俺は片手で彼女の髪を撫でる。


サボりへの罪悪感は即座に吹っ切れたのか、もう心地よさそうに目を閉じる蒼衣。


……たまには、こんな平日があってもいいだろう。


そう思い、俺も目を閉じて、もう一度眠りへと落ちていくのだった。

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