第13話 夕食前の考えごと

カチカチカチカチッ、というボタンを押す音の後に、画面からドン! と大きな音がした。


「あーー!」


それと同時、蒼衣の叫び声が隣から聞こえる。


帰宅してしばらくしてから、やることのなかった俺たちは某大乱闘ゲームで遊んでいた。


相変わらず、蒼衣は弱いので画面には俺の完封勝利が示されている。


「まだまだだな。出直して来たまえ」


「ぐぬぬぬ……。もう1戦! ……と、言いたいところですけど」


そう言って、蒼衣がちらり、とベッド脇のデジタル時計へと視線を移す。


「ん?」


それにつられて俺も時計を見ると、時刻は19時30分を回っていた。


「そろそろ夜ご飯の準備をしないといけないので、リベンジはまた今度です」


「そうか。リベンジはいつでもいいぞ」


「余裕そうですね……。必ず倒します。ハンマーで」


「ハンマーは強すぎるからリベンジ扱いにはならねえよ。自力で頑張れ」


「ハンマーも実力のうち、ですよ」


「運も実力のうち、みたいに言うんじゃねえよ……」


「ハンマーが出てくるのも運ですし」


なんて言いながら、ぴん、と立てた人差し指を振りつつ台所へ向かう蒼衣。その後ろ姿を見ながら、俺はゲーム機を片付ける。


片付ける、とは言っても元の場所に戻すだけなので、それほど時間はかからない。


……さて、何をしようか。


料理を手伝う、なんて言ったところで、俺は邪魔にしかならない。それに、この部屋の台所は、悲しいことに狭い。ふたりで作業するのは、微妙に狭く、動きにくい。


……いや、本当に何をしようか。


いつも通り布団に戻って寝てしまうのもアリなのだが、起きれない自信がある。久しぶりに走ったのだから、当然だろう。


……うむ、となると結局、これで時間を潰すしかない。


俺は、ポケットからスマホを取り出し、ぺしぺしと画面を叩く。


一瞬、何をしようか、と迷ったものの、やっておきたいことを思い出す。


そして、写真のアプリを開き、ブレていた写真を端から消していく。……まったく、俺には本当に写真を撮るセンスがないらしい。誰も写っていない写真が多すぎるし、ブレていない写真はひと握りだ。


……にしても。


これまで、俺のカメラロールには人の写真がなかった。


基本的に風景や生き物、それ以外は大学の黒板やプリントなど、なんとなく撮ったものか必要だから撮ったものしかなかった。


そんな俺のカメラロールにも、ついに人の写真──それも、彼女の写真が表示される日がまだくるとは……。


いつかの自分に聞かせると、きっと驚いて信じないだろう。……まず彼女が出来る、というところから信じないだろうけれど。


人との出会いは不思議なものだな、なんて、時々思うことを考えていると、結構な時間が経っていたらしい。


ぴょこ、と台所から顔を出した蒼衣と目が合う。その大きな瞳には、俺の姿が写っている。


「出来ましたよ、先輩」


「おう、今行く」


そう言って、俺は漂う香りから、夕食のメニューを当てるべく、鼻を鳴らした。

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