第12話 ブレブレカメラロールと待ち受け画面
「ただいま」
「ただいまですー」
あれからしばらくして、そこそこいい時間になったこともあり、俺たちはアパートへと帰って来ていた。
荷物を置き、床に座ると一気に疲労が体を駆け巡る。思っていたよりも、花見というものは疲れるらしい。
「あー……」
「ふぅ……」
思わず声を出すと、追随するように蒼衣も床に座り込む。
「思ってたよりも疲れたな……」
「そうですね。……多分、走り回ったせいだと思いますけど」
「絶対そうだな……。あ、そうだ。蒼衣は結局どんな写真が撮れたんだ?」
俺たちが走り回った理由である写真は、まだお互いに見せ合っていない。いったいどんな写真が撮れたのか気になるところだ。
「ええと……こんな感じです」
蒼衣は、隣に寄って来ながら画面を操作し、画面に写真を表示させる。最初は桜の写真。そして、それを1枚ずつスクロールしていくと──
「……ほとんどブレてるな」
「……それはまあ、あれだけ動きながら写真を撮ればブレもしますよ」
走り回っていた最中に撮られたものは、どれもこれも、まともな写真ではない。ほとんどがブレていて、俺かどうかの判別も出来るか怪しいラインだ。
「先輩はどうです? ブレていない写真、撮れました?」
「何枚かくらいはな……」
そう言いながら、俺はスマホを取り出し、画面に写真を表示する。
「わお、もはやわたしが写ってないのもありますね」
「俺は基本写真は撮らないからな。撮り方がイマイチわかってない」
そもそも、そんなに写真を撮る場面というのはこないと思う。普段なんて、テストの日程を撮ることがある、くらいだ。
「そういう問題ですかね……?」
「……そういう問題だ」
「絶対違うと思いますけど……」
そんな話をしながら、写真を見ていくが、やはりほとんどの写真はブレている。
「うーん……。結局、先輩が撮った中で1番いい写真はこれですね」
「俺もそう思う」
その写真は、俺がツーショットを撮られた直後に勝手に撮った写真だ。絵になるな、と思っていたこともあって、しっかり桜も入っているので、個人的にもよく撮れていると思う。あとは、最初に撮った食事中の小動物蒼衣の写真も結構気に入っているのだが、撮られた本人はお気に召さなかったらしい。
「じゃあ、これを……」
「あ」
そう呟いて、ぼーっとしていた俺の手から蒼衣がスマホを取って、何か操作をする。
もしや、最初の写真を消されたのだろうか……?
気に入っていただけに少し残念に思っていると、ずい、と目の前にスマホが差し出される。
「どうぞ」
「え、あ、はい」
ご丁寧にロック画面にまで戻されており、写真の無事を確認しようとロックを解除すると──
「ん?」
先ほどの写真──桜を背景にした蒼衣の写真が、待ち受け画面にされていた。
「先輩のスマホ画面まで占領です!」
ぶい! とピースまで決める蒼衣。
「……なんでわざわざ?」
「ロック画面を解除したら彼女の写真ってちょっと憧れありません?」
「別にないな……」
「そ、そうですか。わたしはあります!」
食い気味にそう言う蒼衣。俺の腿に手を置いて乗り出してくるのはやめてほしい。ちょっとくすぐったい。
「お、おう……。それはお前のスマホでやればいいんじゃないのか?」
「そんなの既にしてありますよ、ほら」
そう言って、蒼衣が見せる画面は先ほどと違いホーム画面だ。後ろには、さっき撮らされた俺の後ろ姿が写っている。
「……顔が写ってるのと写ってないのはやっぱり違う気がするんだが」
「そんなことないです。お互いのスマホにお互いが写っているので一緒です」
「そうか……?」
「そうです」
……それに。
これ、安易に外でスマホ開けなくないか? ちょっと恥ずかしいし、何より他の人に蒼衣を見せるのはちょっと、こう、いただけない。……見せたくない。
なんて思っているが、蒼衣はどうやら満足したらしく、上機嫌で自分のスマホ画面を眺めている。
……なら、まあいいか。
そう思った俺は、満足そうな蒼衣を見ながら──
こっそりと、小動物蒼衣の写真が消されていないか確認した。
ちなみに、無事に残っていた。本当によかったと思います。
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