第13話 1番可愛い笑顔で
「──俺と、付き合ってほしい」
これ以上の言葉は、今この瞬間に必要ない。
そう思い、ただ雨空の大きな瞳を真っ直ぐに見る。
「ぁ──」
雨空の小さく開いた口から、ほんの少しだけ声が漏れた。
──そして。
ひと粒、雨空の頬を水滴が走った。
「……やっと、やっと先輩から好きって言ってもらえた……」
その言葉を皮切りに、雨空の瞳からは涙がボロボロとこぼれ落ちる。
「あ、雨空!?」
ど、どうしたら!? 女の子が泣いたときの対処法なんて聞いたこともないんだが!?
慌てる俺に、雨空が飛び込んでくる。
「うお!?」
そして、雨空は、俺の胸に顔を埋めた。
「ずっと、ずっと、先輩は最後までわたしに振り向いてくれないんじゃないかって、そう思ってぇ……」
涙声でそう言う雨空は、顔を俺の胸に擦り付けている。
「……待たせて悪かった」
「本当、ですよ……」
それから、俺は雨空が泣き止むまで10分ほどそのままされるがままになっていた。
泣いた女の子の対処法、というのを知らないせいで、どうしたらいいのか、本当にわからなかった……。
結局、俺に出来たのなんて背中をさすってやるくらいのことだ。
「うぅ、取り乱しました」
涙声で鼻をすん、と鳴らす雨空は、目元を腫らしながら、俺から離れる。
ぐしぐしと涙を両手で拭い、そしていつもみたいに笑って、いつもみたいなことを言う。
「先輩、泣いてる女の子は、抱きしめてあげればいいんですよ」
「そ、そうなのか……」
「はい。……あ、でも」
そこで、ぽん、と何かに気がついたようで、雨空が手を打って。
「もう抱きしめる方法は使っちゃダメですね」
「え?」
「だって──」
そして、ふわりと笑って。
「その方法は、わたしだけにしかしちゃダメですから」
どきり、と心臓が跳ねる。
ああ、こいつは相変わらず、いや、それ以上に、なんて可愛いのだろう。
そう思うと同時、目の前の雨空を抱き寄せて。
いつか、雨空からされたときのように。
唇を触れ合わせる。
「──っ」
雨空が、驚き、小さく息を詰めた後、目を閉じた。
永遠にも感じる数秒の後、どちらからともなく離れる。
唇には、その余韻が残っている。
「……もう、強引なんですから」
雨空が、頬を赤く染めながら、口元に手を当てる。
「……強引、なんてほどでもないだろ」
「有無を言わさずキスしたくせに……。まあ、それも悪くないと言いますか、むしろ良いですけど」
「良いのかよ」
雨空の様子に苦笑した俺は、ひとつ、雨空から確実に聞いておきたいことを思い出す。
「なあ、雨空」
「はい、なんですか?」
「その、告白の返事なんだけど」
「……あ、そうでした。まだしっかり言ってませんでしたね。というか、流れで分かってほしいところですけど」
そう言って、雨空は仕方なさそうに笑った後。
「わたしも、先輩のことが好きです。末長くよろしくお願いしますね」
俺が今まで見た中で、1番可愛い笑顔で、そう言った。
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