第12話 俺は──

カンカンカンカン! と甲高い音を鳴らしながら、階段を駆け下りる。


地上への数段が煩わしくて、残り3段ほどを飛び降りる。ぎしり、と不安げな音が鳴り、足は軽く痺れるが、そんなことは気にしていられない。


片足を軸に回転し、最短距離で道路を駆ける。


駆ける。駆ける。駆け抜ける。


大して距離もないはずなのに、ほんの少しがやけに遠く感じる。


前に見える雨空の後ろ姿は、そろそろ交差点に差し掛かろうか、というところだ。


大学生になり、運動をしていなかったせいか、昔より走れなくなっている。足がもつれそうだし、つりそうだ。


たかだかこの程度で足が痛むなんて、本当に運動不足が過ぎるらしい。こんなことなら、運動しておくべきだった。


そんな思考も浮かんでは置き去りにして、走る。


そして──


「雨空──!」


ようやく追いついた俺は、その後ろ姿に声を投げる。


「! 先輩?」


まさか声をかけられると思っていなかったのだろう。ぴくり、と肩を跳ねさせた雨空が、驚いた表情でこちらを振り向く。


「どうかしたんですか?」


「その、だな。話があるんだ」


「話、ですか?」


「ああ」


そう言いながら、膝に手をついて、少し上がった息を整える。この距離で息も乱れるとは……。


そんな思考は吐き出す息と共に頭から放り出す。


俺が考えるべきことは、言うべきことは、そんなことじゃない。


今からでも誤魔化せる、と逃げようとする思考を、消しとばす。震える足は、疲労のせいか、緊張のせいかわからない。手を強く握りしめ、一度強く歯を食いしばる。


逃げるな。言え。


悟られない程度に、息を吸い込んで。


膝から手を離し、真っ直ぐと、雨空の瞳を見る。


「俺は──」


どんな雰囲気がいいのか。


──そんなのはわからない。


どんな風に言うべきなのか。


──そんなのは知らない。


ああ、わからないし知らない。調べたところでどれがいいのかなんて考えられるわけがない。


今だって、出来るならかっこよく、ロマンチックにした方がいいんだろうと、そう思う。


言葉だって、何かいい台詞セリフがあるはずだ。調べれば山ほど出てくる。ただ、今その言葉は頭の中でまとまってくれない。そんな格好のいい振る舞いは出来ない。


──けれど。


いや、出来ないからこそ。


俺に言えることは、俺が言うべきことは、シンプルに、これだけだ。


「俺は──」


ただ、シンプルな言葉に載せて。


「雨空、お前のことが好きだ」


この想いを、真っ直ぐに。


「──俺と、付き合ってほしい」

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