第2話 鍋好き後輩鍋嫌い先輩

ホワイトデーのお返しを渡すタイミングを考えながら、スマホの画面をぺちぺちと叩いていると、台所から雨空が顔を出す。


「せんぱーい」


「ん?」


「今日の夕飯、お鍋にしようかと思いますけどどうですか?」


「鍋、か……」


「おや? 先輩、お鍋嫌いですか?」


鍋と聞いてテンションが下がったのに気付かれたようで、雨空がにやり、と笑いながらこちらへと歩いてくる。


「お鍋はいいですよー。温かい、お野菜が食べられる、そして何より美味しい!」


「……でも味に飽きるんだよな」


「そうですか?」


「そう。ずっと同じ味だから飽きる」


「あんまりわからない感覚ですね……。あ、お鍋の良いところ、まだあります。〆の雑炊が美味しいです」


「まあ、美味いには美味いが……」


あれも別に、わざわざ食べたいほどでもないんだよな……。


「それに、お鍋の醍醐味はみんなでひとつのお鍋をつついて食べることですよ。あれが楽しいんです」


「……楽しいか?」


「楽しいじゃないですか。揃ってご飯食べるの」


「……別に鍋じゃなくてもいいだろそれ」


正直、まったくわからない。バーベキューの方が楽しいと思うが……。


「先輩、相当お鍋嫌いですね……」


「……そうかもしれねえ。子どもの頃から鍋って言われるとテンション下がってたし」


幼い頃から野菜嫌い、というほどではなかったが、好きではなかったので鍋は天敵だった。味に飽きるのもそうだが、やはり味の濃いものが好きなのだ。


子どもの頃を思い返していると、ひとつ思い出したことが。


「ごまだれあるか?」


俺は、ごまだれが最も好きなのだ。というか、鍋のときはあれが必須だ。ごまだれ、味が濃いからな。


「ごまだれは……ないですね。買いに行きます?」


とてて、と軽快な足音で台所へと向かった雨空が、冷蔵庫の中身を確認してから戻ってくる。


俺は、即座に立ち上がり──


「ごまだれのない鍋はさすがにダメだ。むしろごまだれ以外はいらねえ。買いに行こう」


「そこまでですか!?」

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