第11話 ハンマーこそ最強!

戦いは混沌としていた。


雨空は、2体のCPUに襲われており、乱戦を強いられている。


そして俺は──


「先輩ステージの端から撃たないでください!」


「いや、これそういうゲームだからな」


三者の戦場へ、拾ったアイテムの銃で攻撃をしていた。真っ直ぐに飛ぶ弾が、飛んだり跳ねたり吹き飛んだりするキャラクター達に小さくダメージを与える。


「くぅ……っ!」


雨空が、アイテムの剣を拾い、赤帽のCPUへと斬りかかる。しかし、俺の与えるダメージが、各キャラクターの動きを阻害するらしく、微妙に攻撃が当たらないようだ。


「ぐぬぬ……やっぱり先輩を倒すのが先ですね……」


電気ネズミに攻撃を与えた雨空が操作するピンクボールが、そのままジャンプで乱戦を切り抜け、逆サイドにいた俺の方へと飛んでくる。


「先輩、お覚悟を!」


「武士かよ」


そう言いながら、俺は銃でピンクボールを牽制。何発か当たったらしく、進行方向とは逆に飛ばされていた。その間に、新しいアイテムが発生した場所へと移動する。そして、その場所に留まり、雨空を待つ。その間に、赤帽と電気ネズミもこちらへと向かってきていた。


「ほら、早く来い」


「余裕ですね……。そんなのだと足元すくわれますよ!」


そう言って、雨空が上空から落下攻撃をしてきたところで、俺はアイテムを手に取る。


それは、このゲーム最強のアイテム。……だと、俺が思っているものだ。本当は違うのかもしれないが、そんなことは知ったことではない。圧倒的攻撃力を持つその武器。それは、木の棒の先に黒い硬質の円柱がついたもの。つまり──


「ハンマー最強!」


そう、ハンマーである。


「ああっ!?」


自動で振られるハンマーの一振り目に直撃した雨空の操作するピンクボールは、ドゴォン! という派手な音とともに画面外へと吹き飛んでいく。雨空のダメージ総量を示していたゲージがなくなり、また0を示している。今回のルールは、先に3回吹き飛ばされれば負け、というものだ。


「強い武器まで使うのはずるいです!」


視線は画面に釘付けなので、実際に見たわけではないが、雨空は頬を膨らませているのだろう。


「ハンマーが俺の近くに来たのが悪いからずるくないな」


「使わなければいいじゃないですか! 先輩ハンマー禁止です!」


「ええ……」


そんな理不尽を言われても、俺の操作するキツネはハンマーを振り続ける。


そのハンマーの範囲内に、ついに赤帽と電気ネズミが到達。互いに殴り合いながら来たのだろう。ダメージ総量はそこそこなものになっている。


ちなみに、あまりの強さに時間制限や操作に制限があるものの、そのデメリットを考えてもなお強いハンマーは、乱戦でこそ進化を発揮する。


つまり。


「3連撃! やはりハンマーは最強!」


赤帽と電気ネズミが、容赦なく吹き飛ばされた。そして、役目を終えたとばかりにハンマーが時間切れとなり消滅する。


ハンマーこそ最強の武器……俺の相棒だ……!


圧倒的吹き飛ばし力に気分を良くしていた俺は、つい油断をしていたのだろう。


「隙ありです!」


「な──!」


虎視眈々と時間切れを狙っていた雨空に、俺のキツネが盛大に吹き飛ばされ、画面の外へ。


「油断しましたね……!」


ドヤ顔の雨空が、にやりとこちらを見て笑う。


「まだ1回飛ばされただけだ」


そう、まだ1回だけ。勝負は、ここからだ。


キツネ、ピンクボール、赤帽、電気ネズミ、各残機2。

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