第10話 察しが良いのも考えもの

雨空が選んだのは、俺と雨空がゲームをするときに定番の、大乱闘ゲームだ。


格ゲーと違い、初心者でもアイテムやCPUがステージに出現するように設定すれば勝ちの目がある、お祭りゲームである。


「……結局これか」


「……これしか勝てそうになかったので」


そう言って、雨空が立ち上がり、ぽすり、と俺の隣に腰を下ろす。


「番外戦術はなしですから、先輩もしないでくださいね?」


「雨空がしてこなかったらしてないんだよなあ」


まるで、俺が仕掛けたみたいな言い方はやめてほしい。俺は被害者だ。


起動画面を見つつ、あれだけ離れてほしいと思っていたくせに、いざ離れられるとその感触が名残惜しいと感じている自分に呆れる。……決して、決して下心ではない。もっと触りたかったとかそういうのは少ししか考えていない。本当です。


「先輩、何かよくないこと考えてます?」


じとり、と雨空がこちらを見る。


「……何も考えていませんが」


「……」


じとり……と、視線が刺さる。別に、怒られるようなことは考えていない。……ほんの少ししか。


「……」


「…………」


「…………」


「……まあいいです」


そう言って、小さくため息を吐く雨空を見つつ、俺も安堵する。相変わらず、察しが良すぎる。


「先輩がわたしでどんな風に想像したとしても、それは先輩の自由ですし。それにまあ、前にも言いましたけど、わたし先輩になら何されても構いませんし」


「何かをする想像はしてないが!?」


やっぱり察しが良すぎる!


「……何かを想像は、ですか。へえ」


俺のツッコミに、雨空がにやり、と笑う。嵌められた──!


「ということは、想像自体はしたんですね?」


「……ノーコメントだ」


すっ、と視線を逸らす。


「どんな想像を?」


「ノーコメント」


「夜ご飯」


「飯を人質はひどいと思うんだが!?」


夕飯を人質に取られるのは非常に厳しいものがある。改めて、食事の雨空への依存度を実感していると、雨空がにやり、と笑ってこう言った。


「使える手を使ったまでです」


使える手、か……。なら、俺も逃げるのに1番良さそうな手を使わせてもらおう。


「……この勝負に勝ったら教えてやろう」


「……言いましたね?」


「俺が勝ったら詮索はなしだ」


「いいでしょう」


自信満々にそう言った雨空は、キャラクターを選択しはじめる。ちなみに、雨空の俺に対する勝率は2割程度なので、自信の源は謎だ。


雨空は、いつも使っているピンクの球体型ブラックホールを、俺は近未来キツネを選ぶ。そして、CPU2体はランダムを選択。


ステージもランダムを選択。理由はもちろん、平面でやると雨空が確実に負けるからだ。


少しの読み込みの後、画面が切り替わる。ステージは、障害物の少ないシンプルなもの。敵であるCPUは、CPU3が赤帽の人、CPU4が電気ネズミのようだ。


……多分いけるな。そう俺が思うと同時、カウントダウンがはじまる。


3……2……1……。


GOの文字が浮かび上がる。


そして──


「今回だけは、絶対に勝ちます!」


気合十分の雨空が、俺に突撃してきて──


「このCPU邪魔ですぅぅぅぅ!」


間にいたCPU4の電気ネズミに攻撃され、乱闘がはじまった。


CPUいないと勝率下がるのお前じゃん……。

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